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「待ってくれ、グリューネ…この少年の、言う通りに…!」
苦しげにそう言った男が、グリューネへと顔を向ける。急ぎ足で戻ってきたグリューネが、恐る恐るファルベを見た。
「怪我を治さないといけない。そこの部屋まで運ぶのを、手伝ってほしい」
「そこの部屋、…は…たしか、物置きじゃ」
「今は僕と父の部屋なんだ。さ、早く!」
男の身体を部屋に運び入れ、ファルベが傷口を確かめる。悪い汗をかき始めた男を見るなり、口惜しげに顔をしかめた。
「ちッ……ナイフに毒か」
「どく…!?」
グリューネが驚きに声を上げる間、ファルベは部屋の隅にあった瓶を一つ取った。
「傷口のある脚を、そこの置物の上に置いて…心臓より高くするんだ」
「は、はい」
言われるがまま、男の左脚を箱の上に置くグリューネ。瓶から丸い粒を取り出し、男の口元に近づける。
「解毒の薬です。口を、開けてください」
ゆっくりと口を開いた男が薬を飲み込む。ファルベが部屋にあった布地をその脚に巻くと、男はうっすらと目を開けて訴えるような視線を向けた。
「……追っ手、が……!」
その意味を汲むと、ファルベとグリューネは顔を見合わせた。
「国王さま、まさか…」
「考える暇はない。…君はここにいて、この人を看ていて。声は出さないように」
早口にそう言ったファルベは、部屋の棚から小さなナイフと布切れを取り出すと扉を開け外の様子を窺った。
「…どう、するの」
「僕が、囮になる」
部屋の前、床に点々と続く血の痕を布で拭き取る。廊下まで拭いた後、ファルベは自らの右手首をナイフで切った。
「えっ…!」
「…一時間後、僕が戻らなかったら人を呼んでくるんだ」
そう言い残し、ファルベは血を滴らせながら廊下を歩いていった。
「……もしかして…」
ファルベの行動の意味を悟ったグリューネは、急いで部屋の扉を閉め鍵を下ろした。





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