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「アインスさま。朝市で、リンゴを買ってきました。わたしも一つ、さっき食べてみましたから…おいしいですよ、アインスさま」
ベッドの上、膝を抱えて座り込むアインスへ懸命にリンゴを勧めるグリューネ。
「アインスさま、今日もなにも食べてないではないですか…お体を、わるくしてしまいます」
「…………たべたく、ない」
「…アインスさま…」
困ったように項垂れたグリューネは、おずおずと部屋の片隅にリンゴのカゴを置いた。
「ここに、おいておきます。おなかがへったら、食べてください」
しつれいします、と深く頭を下げると、グリューネはそっと部屋を後にした。
「……アインスさま…リンゴ、食べてくださるかな…」
部屋に戻り、机に置いていた本を手に取る。
かつて武勇を馳せた騎士の、戒めや心構えが書かれた書物。他国を放浪した筆者が見た、優良な臣下達の姿を描く書物。紙がよれよれになったそれを、寝台の上で開く。
「……もっと、勉強しなきゃ。アインスさまに、信じてもらわなきゃ」



翌朝。剣の稽古を終え、グリューネは部屋へと戻る道を歩いていた。
正装へ着替え、朝食を取ってからはまた他の家臣達の政務を手伝う。
漸く慣れてきた城仕えの中で、グリューネの評価は往々にして高かった。日々の鍛錬は怠らず、王家への忠誠厚い将来有望な子供。驕ることのない姿勢は、誰が見ても優秀そのものであった。
「…………?」
上階へと続く階段に差し掛かったその時、誰かの声がグリューネの耳に入った。





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あきゅろす。
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