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数年経ったある日のこと。
「城から、声がかかった…?」
買い物から戻ったファルベは、出会い頭の母の言葉に目を丸くした。
「そう。あの人が、城のお偉いさんの目に留まったって」
「それで、どうして僕まで?」
「あの人が話をつけたらしいよ。将来、あんたも気に入られて城で働けたら、うちの暮らし向きも良くなるだろうし」
薄給とはいえ、高名な貴人に雇われればそれは拷問人の大切な収入源。まして城の人間に召し抱えられることは、カルテで一番の働き口であった。
「どうして父さんが…」
「さあね。偉い人の気持ちは知らないよ…出発は明日だ、早く支度しな」
「……はい」



「…ずいぶんと、急な話ね」
荷物を纏めたファルベは、件の話をするためにヴァイスの家へ訪れていた。
「ああ。…なんでも、急に人手が必要になったとかで…」
「帰ってくるの?」
「…………」
不安げにファルベの顔を見つめるヴァイス。困ったように目を伏せ、ファルベはその肩を抱いた。
「………、帰ってくるよ。君の元に」
確証は何もない。それでも、せめてもの望みを口にすることで、ファルベは心の隅に巣くう不安を拭おうとした。
「…待ってる、から」
「ありがとう。…それじゃあ」
名残惜しさを押し殺し、縋るように抱きついていたヴァイスを放す。一度も振り返らずに、ファルベはゆっくりとその場を後にした。





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