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王家や貴族の間では、裁定や処刑、あるいは趣味の一環で拷問を行うことがあった。カルテの貧民街であるハンフには、その拷問を生業とする彼ら---拷問人と呼ばれ、生ける人間の中では最も忌み嫌われた人々---が住んでいた。正確に言えば、“住まざるを得なかった”。
貴人はもちろんのこと、騎士や商人、貧農の類でさえ、彼らを軽蔑し罵倒することで一種の矜持、あるいは優越感を得る。階級という世界観に生きる者達にとって、家畜を屠殺するように人を殺め、または嬲る“人非人”は、鬱憤の捌け口にまさしく好都合であった。



とりわけヴァイスは、その現実に不条理を覚えていた。
子供からは石を投げられ、大人からは冷たい視線を浴びること。決められた区域以外には気軽に漫ろ歩きすら出来ないこと。痩せた土地と粗末な家しか知らない生活を強いられること。
「拷問人同士で結婚しなきゃいけない、ってこと以外、何もいいことなんてない」
傷跡を眺め、そう弱音を吐くヴァイス。野草摘みに出掛けた際に農家の子供に石を投げられたそれは、体の傷は些細でも心に深く突き刺さっていた。
「……そうだね」
包帯を巻き、綺麗に結び留めながら曖昧に頷くファルベ。
「私の相手が、ファルベでほんとに良かった。人の痛みが分からない人はキライ」
「……そうだね。僕も、そう思う」
「ね、久しぶりに湖に行こうよ」
腰掛けていた岩から立ち上がり、ヴァイスが思いついたように言い放つ。
「お母さんがね、木の実で絵の具を作ってよく絵を描くの。シュネー湖の風景が描きたいんだって」
決まり!と楽しげに笑ったヴァイスが、ファルベの手を引いて家路を急ぐ。人の気配の少ない道を、二つの小さな影が走り抜けていった。





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