[携帯モード] [URL送信]
1 拷問人と御曹司



カルテ国北東部。最も寒い場所として有名なシュネー湖のある町、ハンフ。
最下層階級の人間の暮らすその町に、その子供は産まれた。



「恐怖されるに相応しい容貌、器用な指先、適度に力のある肉体、…それから慈悲の無い性格。うってつけの人材だ」
とある場所から訪ねてきた客が、そう言って下卑た笑みを浮かべる。
カルテの一域を支配する男の部下である客人は、家の主である男性を何度か見定めながら満悦の笑みを浮かべる。
「今すぐ私と来てもらおうか。領主様が、今か今かとお待ちしているのだから…然るべき報酬は、後日別の家来が持ってこよう」
有無を言わさず、男性を従えて去ってゆく。残された家族は、悲しみに暮れながらも小さくなる背中を見送った。

「……私達も、いつかはああなるのね」
一部始終を見ていた少女が、悔しそうな声で呟く。隣に立つ少年は少女の肩を抱き、優しく髪を撫でた。
「大丈夫だよ、ヴァイス。…僕らはずっと一緒だから」
「婚約なんて、あんな風に引き裂かれたらおしまいじゃない」
「…それでも、僕は君を愛してる」
「………その言葉、信じてる」
少年の懐に顔を埋めた少女…ヴァイスは、不安にぎゅっと唇を噛む。
「なんで、私達は拷問人の子に生まれたんだろう」
「…それが、僕達の運命だからだよ」
「………ずっと一緒よ、ファルベ」
静かに一つ頷く。少年は、…後にカルテ国王の腹心となるファルベその人は、今はまだその運命すら知らずに、腕の中の恋人へと優しく微笑みかけていた。





[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!