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「………どうか、しましたか」
「え、……ああ。失礼……少し、似ていたもので」
慌てて、握っていた手を離す司教。ロワーはその顔を見上げたまま、小さく首を傾げる。
「誰に?」
「…私達の、父にです。父は立派な方でした……あなたに、その面影を感じたので」
とりあえずは誉められたと解り、俄かに頬を赤らめるロワー。後ろでトロイが小さく笑うと、照れ隠しにじろりと睨んだ。
「ロワー殿。どうぞ、立派な当主におなりください。そして、この街を豊かにしてくださいますよう」
「…もちろん、です」
それでは、とロワーとトロイが教会を後にする。二人が再び談笑していると、こつりこつりと杖を突く音がした。
「ああ、ヴォルフお祖父様。お帰りなさい」
「ただいま。ルビーン、レーゲン。…ほれ、入りなさい」
杖を右手に持ち変え、老人が誰かの背を押す。おずおずと入ってきた少年は、背負った籠を降ろすと、それを抱えて司教へ差し出した。
「こんにちは、司教様。…これ、」
籠の中には、痩せた野菜が少々。それを見て、司教は優しい笑みを浮かべた。
「いつもすみませんね」
「…うちは、こんなのしか…寄付出来ませんが、」
どうやらすれ違ったロワー達の姿を見たらしく、気後れに声が小さくなる。
「ありがとう、クルール。有り難く頂いていますよ。…皆の気持ちが、私達のやりがいです」
パッと、少年…クルールの表情が明るくなる。一同に深く頭を下げ、嬉しそうに部屋を後にした。
「…律儀な子ですね、兄さん」
「ああ。…ザフィーアに、野菜スープでも作ってもらおうか」
「そうだ…先程いらしていたセフロワ家の坊ちゃんだが」
老人が、そう言って可笑しそうに笑う。
「これからは毎週、いらっしゃるそうだ。なんでも、道を覚えさせたいんだとかで…」
三人が顔を見合わせる。誰からともなく笑いが零れ、和やかに笑い合った。





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