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188 終焉の焔



全てをさらけ出したケーニッヒは、悲しみに紅の瞳を揺らした。
涙がその頬を伝う。短剣を持つ手が、小さく震えていた。
「何もかもがおしまいだ。私にはもう、何も残っていない。お前がここで死ぬことを選ばないのならば、私は一人で最期を迎えよう」
ケーニッヒの背後、地上への出口で突如、紅い火花が散った。
「…………あの日と、同じだ」
どうやら城が炎に包まれ始めたらしく、地下の気温はいよいよ上がってきていた。
「…私は、“また”愛すべき国を失わなければならない。目の前で滅びゆく国を見るのは、これで二度目だ」
その言葉に、ケーニッヒが目を見開く。フィデルが伏せていた顔を上げると、その菫色の瞳から雫が降った。
「ケーニッヒ様。あなたがお逃げにならないのならば…私も、この国と運命を共に致します」
手を差し出す。その意味を理解し、ケーニッヒは顔を歪めた。
「……どうして…」
「…ケーニッヒ様。もし、運命が私とあなたを三度引き合わせるなら。王と忠臣という形を望むなら」
ゆっくりと歩み寄り、優しく手を重ねる。静かに短剣をその手から抜き取り、己の胸に翳し。
「次はあなたの元に、生まれましょう」



深々と刺さった短剣が鮮やかな緋色に染まる。あの日のような優しい微笑みを浮かべたまま、フィデルは息を引き取った。
頽れた体を、押し黙ったまま見つめる。
「……フィデル。私は、もう王は嫌だ…次に巡り会う時は……ただ一人の人間として、隣にいてくれ」
その手の傍らに転がった、短剣を拾い上げ。
「……約束だ。お前とまた会えると、信じている」

鮮やかな緋色。真っ赤な血と同じ色の瞳が閉ざされる。
赤々と燃え盛る地下には、二つの亡骸だけが残された。





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あきゅろす。
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