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「……どうして、こんなに優しくするの」
顔を伏せたまま、アインスが小さな声で尋ねる。そっとその髪を撫でながら、フィデルは静かに微笑んだ。
「あなた様が悩み苦しんでいたからです。そんな人を、見過ごす訳にはいきません」
「……カルテと、同盟を結ぶから?」
え?という声で体が揺れる。ふ、と息を吐き出す音と共に、幼子をあやすようにぽんぽんと頭を叩く。
「違いますよ…少なくとも今は、カルテもパルフェも関係ありません。ただの、あなた様と私の話です」
「……信じたい」
「え…?」
「その言葉を、信じたい」
ゆっくりと顔を上げるアインス。目と目が合えば、フィデルは慈しむような微笑を浮かべ。
「そうですか。では、信じてください…私を」
うん…と短く頷いたアインスは、安心したのか一つ、小さな欠伸をした。
「アインス様。そろそろお休みにならなければ……お体に障りますよ」
「うん…。お休み、フィデル」
「お休みなさい。アインス様」
「………もし、」
噴水を離れたアインスが、ふと立ち止まってフィデルを振り返る。
「もしフィデルがカルテの人間で、僕の家臣だったら」
「……?」
「そうだったら、良かったのに」
「…ありがとうございます。アインス様」
紅色の瞳が悲しみに揺れる。アインスはそれから、一度も振り返らずに中庭を後にした。



翌日、ケーニッヒ達はカルテへと戻った。その先に待っていたのが、ツヴァイの死とケーニッヒ国王の失踪、そしてアインスだけの空っぽの後継の儀とも知らずに。
そして、ソノリテやフィデル、パルフェの家臣達は去り行く馬車を見送った。それがパルフェ滅亡のカウントダウンの、始まりとも知らずに。





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