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絞り出すように吐き出される言葉。
「ツヴァイのこと、本当は鬱陶しいと思うことがあるんだ。僕よりも何もかも出来て、…僕に懐いてくると、嫉妬にかられる…愛するなんて出来ない。父上だってそうだ、期待に応えられない僕に、愛想を尽かしてると、思ってる。家臣達も、きっと僕のことは無能だと思ってるよ。弟が王になればいいのに、って、僕なんか、いなければ、いいのに、って」
一気にまくしたて、しまいには涙声でしゃくりあげながら、アインスはそう語った。
「どうして、僕が一番目の王子なんだろう、ツヴァイが王になればいいのに、僕なんか、生まれて、来なければ」
「アインス様!」
強く肩を抱かれ、アインスはびくりと体を強ばらせた。
「…それ以上、そんな悲しいことを仰らないでください」
抱きすくめられた腕の中、早鐘を打つフィデルの鼓動が聞こえる。
悲しんでいる。そう理解したアインスは、顔を伏せたままその音を聞いていた。
「自分より優秀な兄弟に嫉妬することも、親の期待に添えないことを憂うのも、当たり前の感情です。それが、まして王子という役目ならば…。しかしそれでも、アインス様。あなた様は、弟君に嫉妬することをすまなく思っている。父上の期待に添えないことを、悔しく思っている。それは、あなた様に愛情があるからに他なりません」
切々と語られる言葉。子守歌のようで、悲しみに似た感覚がアインスを包んだ。
「あなた様の愛を否定しないでください。誰かを愛おしむ心を捨てないでください。…あなた様は、愛されているのですから」
再び溢れ出た涙が、フィデルの服に染み入る。それでも腕を離さないその温もり、アインスの中で少しずつ何かが綻んでいった。





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