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驚いた様子のアインスが顔を上げる。近寄ったフィデルは、膝をつきアインスの肩を抱いた。
「アインス様、お怪我はありませんか」
「え…」
「皆様が心配なさっておりました。早く戻りましょう」
「…………やだ、」
腕を引こうとした手を払う。アインスの方を振り返り、フィデルは不思議そうに目を見開いた。
「アインス、様…?」
「……帰りたく、ない」
「……アインス様…」
「帰りたくない……カルテに、戻りたくない」
顔を立て膝に埋め、駄々をこねるように零す。
「……しかし、あなたが戻らなければ。ケーニッヒ様もツヴァイ様も、カルテの国民達もきっと心配なさいます」
「僕はいらない。ツヴァイがいれば、カルテは大丈夫」
「………」
「だから、」
「アインス様。何故、そう思うのですか?」
傍らに屈み込み、フィデルが優しく尋ねる。顔を上げたアインスは、ゆっくりと口を開いた。
「…僕は何も出来ない。王子らしい振る舞いも、子供らしい愛嬌も、花の冠さえも」
「………」
「ツヴァイは優秀だから、僕より王に向いてる。父上も、弟が継ぐ方が安心出来るはずだ。だから僕はいらな、」
「アインス様」
ぴしゃり、諫める声にアインスが目を丸くする。どこか怒ったような表情で、フィデルはその目をじっと見つめた。
「王になる素質は、素養の有無や嗜みに限りません。それに、…あなたは王子である前に一人の人間だ」
「……」
「あなたという存在が、いらないなどということはありません」
何か言い返そうとしたアインスから、ぐう、と不意に気の抜けた音がする。
「……夕食のお時間ですよ。アインス様」
可笑しそうに笑ったフィデルは、再びアインスの手を取り。今度は素直に立ち上がったアインスは、フィデルに手を引かれて夕暮れの道を歩いた。





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