[携帯モード] [URL送信]
166



夕暮れ時、ベゾンダの家の中は緊張が高まりつつあった。海路を使いコラソンへ渡る手筈の打ち合わせは済み、あとは辺りが暗闇になるのを待つのみ。
はしゃぎ疲れたドライは眠りに落ちていたが、これからの旅路を思えば起こす者はいなかった。
誰もが同じ沈黙の中、不意に外が騒がしくなる。いち早く立ち上がったフィデルが、コラソン兵達の様子を見に外へ出る。
「フィデル殿」
「…グリューネ、殿?それに…ブルーメさんに、ザフィーアまで」
辺りを窺うように目を配り、グリューネがフィデルの前へ歩み出る。
「追っ手はありません。誰にもつけられないように、慎重に参りましたので」
「……え、と…」
「実は、ザフィーアが…お別れを言いたいと」
「わがまま言ってごめんなさい、フィデルさん」
寂しげな表情で、ぺこりと頭を下げるザフィーア。
「…アインス様に、ですね」
状況を理解したフィデルは、すぐに三人を迎え入れた。部屋の一同は、三人を見るなり一様に目を丸くした。
「ザフィーア…!」
「アインスさま!」
ザフィーアがアインスに走り寄りその手を取る。アインスは悲しみに顔を歪め、小さな手を強く握り返した。
「もう、会えないと聞いて、その……アインスさま、お元気で」
「……ザフィーア…」
俯きながら小さく唇を噛む。決意を込め、アインスはまっすぐにザフィーアを見つめた。
「…ザフィーア。君の一生を、僕にくれないか」





[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!