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「ところで、フィデル殿の御用は?」
「………。国王様が…奥様と王子達を、国外へ逃亡させようとしています」
フィデルの言葉に、ヴォルフはいよいよ表情を険しくした。
「革命の…暴動の被害が、及ばぬようにと」
「そうか……」
「ヴォルフさん。あなたに、共に逃げる気はありますか」
「…なに…?」
「………あなたは、ケーニッヒ様の……父上なのでは、ありませんか」
「…………」
驚きに目を見開いたヴォルフは、少しの沈黙の後に小さく微笑を浮かべた。
「……これから話すことは、独り言だと思ってほしい」
無言のまま頷くフィデル。椅子の背もたれに体を預け、ヴォルフは天を仰いだ。
「人間とは弱い生き物だ。自らが力をつけなければ、誰かを犠牲に、守ってもらうしかない……あるいは、逃げるしか」
静かに、ヴォルフの頬を滴が流れ落ちる。
「私は…己の運命を受け入れるべきだった。危険と隣り合わせと分かっていても……王という役目から、逃げてはいけなかった。ケーニッヒ…いや、ブルートは逃げなかった。逃げられなかったのかもしれない、ならばそうしたのは私だ。……私は、贖わなければならない。贖う術も知らぬくせに」
「……その罪の意識を抱きながら、生きる覚悟はありますか」
「生きることが、一つの贖罪だ」
「ならばヴォルフさん…私と一緒に来てください。あなたの息子が残した、希望と共に生きてください」
「……それは、許されることかね」
「……それが、あなたが赦される術です」
ゆっくりと一つ頷いたヴォルフが、杖を手に立ち上がる。纏めていた荷物をそのまま取り、フィデルの案内に従い家を発った。





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あきゅろす。
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