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13 内憂外患



その日、カルテ国には張り詰めた空気が流れていた。

「ようこそ、我らがカルテ国へ。エモシオン王子」
ファルベの言葉に会釈した青年は、玉座に鎮座するケーニッヒへ深く頭を下げた。
「はじめまして、ケーニッヒ国王。私はコラソンの国の第一王子、エモシオンと申します」
「よくぞいらした、エモシオン殿」
「この度は遙々遠方よりお越しいただき、有り難き幸せに存じます…」
「それにしても」
ゲルプが長い世辞を言おうとした矢先、ケーニッヒが低い声でそれを制止する。
「高位の人間は貴方だけか。国王殿はおろか高官達すら姿を見せないとは、私も馬鹿にされたものだな」
一瞬にして謁見の間が凍る。その場の全員が何と返そうか口を開きかけた時、ケーニッヒのすぐ脇から抗議の声がした。
「お言葉ですが国王様」
「…何だ」
「遠い異国まで少ない兵士しか連れられぬというのに、高位の方が何人もお越しになるのは些か危険ではありませんか。他国に礼を払う為に、祖国を蔑ろには出来ないでしょう」
不機嫌な表情のケーニッヒに睨まれて尚、フィデルは顔色一つ変えずに言葉を続けた。
「それに本日は、エモシオン王子御自身がこの旅を御希望なさったと聞きます。公的な交流ではなく、わざわざ国王様への挨拶の為だけに。無論兵士が少ないのも、私的な訪問を迎える我々に多くの手間をかけさせないようにとの、配慮ではないのですか?」
ふむ、と唸ったケーニッヒ。ファルベ達が顔を蒼くしたり紅くしたりしている間に、エモシオンが深々と頭を下げた。
「全ては私の我が儘でございます。そちらの方の仰る通り、国王様への私の挨拶だけのために、大袈裟に兵を引き連れては却ってお手間かと…失礼を承知の上で、判断させていただきました」
「なるほど。そこまでの配慮、お若いのに立派な御仁だ…私こそ、言い過ぎたようですな」
軽く頭を下げたケーニッヒに、エモシオンが深いお辞儀で返す。ちょうどその時、扉が開いて給仕の人間が姿を現した。
「ケーニッヒ様、宴の支度が整っております」
「そうか。ではエモシオン殿、はるばる来ていただいた訳であるから、どうぞ食事でも」
「ありがとうございます」
ゆったりと立ち上がったケーニッヒは、エモシオンに連れ立ちながらちらりとフィデルを見て、意味ありげな笑みを浮かべた。





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