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城に戻り、今日の分の政務を終える。自室に入れば、昼間に歩いた分の疲労が重くのしかかった。
今までに遺民街へ行くにつけて、民の信頼をどれだけ精神的な拠り所としていたか。深い、溜め息を吐いた。
「………希望、…か」
寝台に寝転がり、天井を仰ぐ。窓から忍び入る月光が、やけに眩しく感じた。
「…………」
コンコン、と扉をノックする音。はい、と声を上げれば、聞き慣れた声。
「失礼、フィデル殿。ファルベです」
「……ファルベ、殿?」
扉を開けた音に、重い体を起こす。穏やかな声のファルベからはいつもの厳しい雰囲気は無く、僅かに微笑すら浮かべていた。
「どうなさいましたか」
「少し、話したいことがあります。…私の部屋へ、来てもらえますかな」
「え…、ええ。構いませんが」
ゆっくりと寝台を降りるフィデル。無言で歩き出したファルベに続き、部屋を移る。
その穏やかさに寧ろ、悍ましい感覚を抱く。
「………あの、ファルベ殿…話とは」
「部屋でお願いします」
「…………」
有無を言わさぬ雰囲気。険もないはずの声が、何故か恐ろしく響いた。
「どうぞ」
部屋に通され、以前と変わらない光景を眺める。改めて、何もない部屋に違和感を覚えた。
「……それで…」
「その前に。とりあえず、いかがです」
テーブルに置かれたボトルを取り上げるファルベ。明らかにワインと分かるそれに、フィデルは目と耳を疑った。
「あの、…私、前にも言っ…ワイン、は」
「どうしました?ほら、遠慮なく」
ぐい、と突き出され、思わず後退りをしたすぐ後ろには寝台が迫っていた。





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あきゅろす。
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