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帰途についていたフィデルは、ダンドリオンに差し掛かると不意に足を止めた。
「………あれは」
見れば、ヴォルフが家へ帰るところであった。杖を突くその後ろ姿を追い、早足になるフィデル。
「ヴォルフさん…!」
「…ああ、フィデル殿か」
振り返ったヴォルフは、フィデルを見るなり暗い目をした。
「ちょうど良いところに来た。少し、話したいことがある」
「……はい」
家へ招かれて上がったフィデルは、部屋の人間達に緊張が走ったことに気づいた。
「………ヴォルフさん」
「革命だ。カルテに、革命の時が近づいている」
前触れなく、そう切り出したヴォルフ。フィデルは目を見開き、住人達はそそくさと部屋を離れた。
「革、命?」
「ネニュファールは、ミュゲや遺民街の動向を窺っていたらしい。…先日、このダンドリオンと協力して革命勢力を倒したいと申し出てきた」
「………そんな…」
「……もちろん、断ったよ。カルテの街同士が争うということに、加担したくはない」
街の総意でもあったしね、と付け加え、ヴォルフはゆっくりと目を伏せた。
「……フィデル殿。平和とはやはり、夢物語なのだろうか?」
「…………」
「少なくとも、この国では」
「希望がある限り、不可能ではありません」
自分の声が震えているのは分かった。しかしそれでも、フィデルはまっすぐにヴォルフを見つめた。
「……希望、か。長らく忘れていた言葉だ」
その意志に胸を打たれたか、ヴォルフの瞳にも光が戻る。
「フィデル殿。…あなたは、この国の希望そのものかもしれない」
窓を鳴らす乾いた風。カルテの冬は、いよいよその手を強めていた。





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あきゅろす。
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