[携帯モード] [URL送信]
155



そうして目を覚ましてから一週間。
遺民街へと続く道を、心なしか重い足取りで行くフィデル。目的地はそこではなかったが、自然、あの日の残像が何度となく頭を過った。
「……こんにちは、ベゾンダさん。フィデルです」
控えめに叩いた扉が、やはり控えめに開けられる。フィデルの顔を見たベゾンダは、安堵に顔を緩めて彼を招き入れた。



「あれから、お変わりありませんか」
どこか低いトーンの声に、ベゾンダの表情にも影がさす。
「ええ。特には、ありません」
「そうですか、……」
言葉が途切れ、重い沈黙が続いた。手のつけられていないグラスの水が、憂鬱なフィデルの表情を映し出す。
「……あの、フィデルさん」
「何でしょうか」
「……あの人との関係は、その…うまくいっていますか」
「…え?」
ベゾンダの言う「あの人」が誰なのかを覚ると、フィデルは動揺に顔を上げた。
「……あの、…男の人同士がどんな事をするのかは、知らないのですが…」
「………」
「私には出来なかったことを、フィデルさんなら出来ると思います。……嫁いだ時から、なんとなく分かっていました。あの人に愛されるのは難しいと…あの人は、あなたのような人を、求めていたんですね」
ベゾンダの言葉に、思わず目を泳がせるフィデル。その戸惑いを見て、ベゾンダは切なげに笑いかけた。
「…最後まで添い遂げることが、伴侶の定めだとしたら。私にはそれは出来ませんから、…フィデルさん。あの人を、お願いします」





[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!