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「遺民街に対する処罰は無し…ですか?」
ケーニッヒの部屋で調度を整えながら、ファルベはそう聞き返した。
「ああ。実害が無かったというのが、最も大きい…それに、今は先にミュゲの方に手を回すべきだろう。規模の差もあるが……」
黙々と書棚の埃を払いながら、冗長なケーニッヒの言葉を聞く。やがて何かに耐えかね、布巾を持つ手をぴたりと止めた。
「表向きは、ですね」
ぴしゃりと遮られ、思わず口を噤むケーニッヒ。
「………」
「ケーニッヒ様。あなたは、」
「それ以上は言うな。…お前にだけは、感づかれると思っていた」
少しの沈黙。再び手を動かし始めるファルベを見て、ケーニッヒは悲しげに眉を狭めた。
「…すまない…」
「……何年、あなたの狂った我が儘に付き合ってきたと」
「………すまない、ファルベ」
「そろそろ、フィデル殿も目を覚ます頃でしょうか」
書棚を拭きあげ、ケーニッヒの方へ振り返るファルベ。ああ…と気のない返事をしたケーニッヒが、ゆっくりと目を伏せる。
「……スープでも作ってやっておけ。さぞや空腹だろうから」
「…畏まりました」
軽く一礼して部屋を後にするファルベ。扉の閉まる音を聞きながら、天を仰ぎ見るケーニッヒ。
「………」
天井をぼんやりと眺め、自嘲めいた笑みを浮かべる。諦めにも似た乾いた笑いが、虚しい部屋に響いた。





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あきゅろす。
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