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床を睨みながら、小さく歯を食いしばるフィデル。
「…私以上に、私の性格を理解していたということですね…」
「恐ろしい才能です。故に、汚れ役にもなる」
「分かり合えないと思っていたのは、私だけだったのでしょうか」
「…残念ながら、それは違います。ファルベ殿は、誰とも理解し合おうとしないのです」
フィデルは不安げに顔を上げ、逆光になったグリューネを見上げた。
「……どうして」
「…それは、私にも。ですがフィデル殿。私がファルベ殿の戒めを破ってこの話をしたのは、私のエゴです。知らぬふりをしろとは言いませんが…彼の心をそっと、偲んでください」
「…グリューネ殿。あなたは、どこまでファルベ殿のことを知っているのですか」
逆光で見えにくいグリューネの表情が、はっきりと悲しみに歪む。
「……二十年の歳月は、存外長いということです」
そうとだけ言うと、グリューネはもうそれ以上何も語らなかった。



カルテへ辿り着き、夕刻に城へ戻った二人を、ケーニッヒが出迎えた。
「待ちわびていたぞ。結果はどうだった」
「はい。コラソン国王は、我々の提案を快諾してくださいました」
「まずはコラソンへの援助から、早急に取り組むべきかと」
「わかった。…二人とも、長旅ご苦労であった」
ありがとうございます、と声を揃える二人。ケーニッヒの勧めで、ひとまずは自室に戻り休みをとることとなった。
「……あ」
部屋への道中、ファルベと出会し思わず声をあげるフィデル。
「おや。無事に帰ってきたのですね」
「…ええ」
「てっきり、私の忠告を無視して陸路を行くと思っていましたが…」
「その節は、ありがとうございました」
「…え?」
心なしか早口にそう言うと、フィデルは逃げるようにその場を後にし。その背中を眺め、ファルベは小さく首を傾げた。





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