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「では、行って参ります」
出発の日。フィデルとグリューネは数人の従者を従え城を後にした。暫く行けば、コラソンとの国境に差し掛かる。
「…ここからは、海路ですね」
従者達に馬の世話を任せ、フィデルとグリューネが船に乗り込む。始終無言であったグリューネは、そこで漸く口を開いた。
「フィデル殿」
「何でしょうか」
「…その節は、本当にすみませんでした」
「…そんな。もう、お気になさらず」
「……前にも言った通り、私は貴族の生まれ…同じく城仕えの父から、国王様への忠誠は絶対だと教わってきました」
穏やかな波音が、柔らかい音楽を奏でる。潮風が、二人の頬を撫でる。
「幼少の頃から国王様へお仕えしていた身には、異国の方が突然ケーニッヒ様の寵愛を受けることが、あまりに奇怪で…憎く映ってしまった」
「分かっています。私も、同じ立場であったなら…きっと、歪な思いを抱かずにはいられなかったでしょう」
不意に強い波が船体を押し。グリューネはそっと目を伏せ、フィデルはその寂しい横顔を眺めた。
「……今は。あなたが特例であることの理由も、分かる気がします。ケーニッヒ様にとって、待ち焦がれていた存在だと。…私も、もう憎いと思うことはありません」
「そうですか……それは、嬉しいことです」
「あなたもきっと、人を疑わずに……言い換えれば幸せに、生きてきたのでしょう。私と同じように」
「え…?」
「……この国は、たくさんの犠牲と不幸を抱えています。私は、不幸な誰かを救いたかった」
「……ケーニッヒ様を?」
「あるいは、別の」
コラソンの領土が見え始める。諦めたように笑ったグリューネは、フィデルの方へ向き直るとその手を取った。
「さあ。そろそろ、コラソンとの交渉について案を詰めておきましょう」





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あきゅろす。
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