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「そうか。……避ける方法は何か、ありそうかね」
「例えば…直接ナチュレに赴き、向こうの為政者と話をつける…のが」
「そうだな。それは実に理想的だ。…だが、切り札が足りない」
「切り札…?」
ヴォルフは深く頷くと、杖の持ち手を手遊みに撫で始めた。
「相手は駆け引きをよく知る人間達。愚直に行ったところで、簡単にことが運ぶとは思えない…。それに、好戦的なナチュレのこと……往来ですら、無事で済むか分からないだろう」
「………そうかもしれません」
「あなたのような、誠意を持って政に臨む人間は、稀なものだ。私利私欲、あるいは策謀は絶えない。…みすみす命を落とすような行動は、…避けた方がいい」
「例えば、軍事力を増して国の保証を確たるものにして、それから交渉へ訪れる…とか」
「そこに、他者の力を借りるという選択肢も入れた方がいい。人は、一人では生きていけない…国とて同じ。隣国を友好的、互恵的に利用する。私ならそう考える」
「……ありがとうございます。……しかし…ヴォルフさん、あなたは」
「はは。言いたいことは分かる。昔、城にいたことがあってね」
そう言うと、ゆっくりと立ち上がったヴォルフは玄関へ向かって歩き出した。
「国を守るというのは難しい。自分の身だけなら、力を付ければ良いが……国には、大勢の弱者がいる。それを忘れて、暴政を執ることは不幸を生む。……フィデル殿、あなたには良い政を期待しています」
「……力の限り」
「すまないね。引き止めてしまって……行ってらっしゃい。大切な民のところへ」





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