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カルテの国に仕え始めて、二週間と二日。遂に命じられた夜伽の役目に、フィデルはその日の朝から頭を抱えていた。
「…何故私が…」
与えられた自室で、部屋着を脱ぎ捨てる。正装へ手を伸ばし、肩を落とす。
「……」
考えてみたところで、所詮は理解不能。諦めたフィデルは、溜め息混じりに袖へと腕を通した。



「フィデル殿。今宵が、初めての夜伽だそうだな」
朝食を終え政務に戻ろうとしたフィデルに、ファルベとローサ、グリューネ達が声をかけた。
「…はい」
「貴方はここへ来て日も浅い。何かお困りであれば、遠慮なく我らに相談しなさい」
「…ありがとうございます」
頭を下げたフィデルに、どこか不機嫌そうなファルベが小さく嗤った。
「しかしまあ、既に我が国の民の信も集めているとの話…流石は“元”パルフェ一の家臣」
僅かに顔を歪めたフィデルを見て満足そうに鼻を鳴らしたファルベは、それでは、と言うと身を翻した。
「…失礼」
後ろにいたグリューネの袖を、軽く引くフィデル。振り返ったグリューネは、静かに笑いながら首を傾げた。
「どうなさった?」
「…その、…今夜の夜伽の話なのですが」
「何か不安がおありで」
「……御存知の通り、私はまだ来て日も浅い新参者。ケーニッヒ様に、何をして差し上げれば良いか全く解らぬ状態です」
「なるほど」
少しの間、何事か思案していたグリューネは、ふと顔を上げてフィデルを見遣った。
「しかし何故私に?ファルベ殿ならば、より詳しかろうに」
「…あのお方は、どうにも私を好かないようでして」
そう言って、苦笑いを浮かべるフィデル。
「新入りの分際で出過ぎた立場なのは重々承知です。しかし、私も人の子…嫌悪されている方に敢えてお尋ねする勇気はありません」
「…なるほど」
グリューネは微笑を返すと、フィデルの手をそっと取った。
「心配なさるな。ケーニッヒ様は優しいお方だ…彼方の望まれたことを、して差し上げれば良い」





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