23 「………タンナ、さん…!」 それは、見慣れた背中であった。湖を眺めているのか、微動だにせず遠い目をしているタンナに、ヒールは思わず目を丸くした。 その後ろから、コッブが同じように覗き込む。 「…蝉?」 「はい…タンナさんっていう、私の…お、お友達、ですっ」 僅かに赤面するヒール。カサカサと草を掻き分け、タンナの元へゆっくりと近寄った。 「…タンナさん?」 ヒールの声で漸く気づいたらしいタンナは、ゆっくりと振り返った。 その目からは、光が失われているようにも見えた。 「………ヒー、ル…っ!!」 虚ろな目に刹那、恐怖の色が浮かぶ。その視線は、ヒールの後ろを捉えていた。 「ヒール、危ない!!」 「え…っ!?」 強く体を引き寄せられる。ヒールを庇う形で、タンナは恐怖に震えながらも目の前の蜘蛛…コッブに対峙した。 「ヒー、ル…」 「タンナさんっ!待って、違うの!」 すかさずヒールがタンナを制止する。悲しそうに表情を歪めたコッブに近づき、蒼褪めるタンナにへらりと笑いかけた。 「コッブさんは…私の、お友達なんです」 [*前へ][次へ#] [戻る] |