22 「コッブさん、こっちこっち」 とっぷりと陽は落ち、静まり返った森に小さな声がする。 ヒールは約束通り、森の虫達が寝静まった頃合を見計らって、コッブを森へと連れてきていた。 「暗くてよく見えないね…」 「そうでしょう、足元には気をつけて」 ひそひそ声の二人が向かうは、森を行った先の湖。カサカサと草の揺れる音と冷たい空気に、コッブは暫し胸を踊らせていた。 「…着いた」 ヒールの声で前方に目を凝らす。広い水面と水草の伸びる空間に、うわあ、と感嘆が漏れた。 「すごい…!」 「素敵なところでしょう?昼は賑やかですけど、夜も綺麗なんです」 月光を受けて仄かに光る水上。コッブは思わず、近くの草に飛び乗って湖を眺めた。 「綺麗だなあ…!」 「気に入ってもらえて良かった」 「ありがとう、ヒール!」 くすりと笑ったヒールが、不意に何かを見つけて動きを止めた。草から降りてきたコッブが、不思議そうにヒールを見る。 「どうしたんだい、ヒール」 「しっ…誰かが、向こうにいます」 え、と零したコッブを片手で制止すると、ヒールはそろりそろりと草陰に近づいた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |