16 森の東に広がる、薄暗い湿地。蜘蛛や蜻蛉、蛙などが住む場所。 昆虫達の多くが、この地を恐れていた。 「…コッブさん?」 「ヒール、こっちだよ」 小さな声の主、ヒールはその例外であった。 木の陰に隠れるようにしながら、一匹の蜘蛛が手招きする。ヒールがそちらへ向かうと、コッブは漸く姿を現した。 「こんにちは、コッブさん」 「やあ。ヒール、来てくれて嬉しいよ」 ヒールが、蛾でありながら蜘蛛と友達になれた理由はこうだ。コッブという蜘蛛は、もとより温厚な性格な上少食で、あまり虫達を襲わなかった。そしてある日、独りぼっちのヒールを見つけ、友達になりたいと声をかけたのだ。 「ヒール、湖はどうだった?」 「とても素敵なところですよ。みんな、楽しそうに遊んだりして」 それから、とびきりの友達となったヒールとコッブは、お互いの立場もあるので、こっそりと会ってお喋りをするようになった。 「いいなあ…僕も、行ってみたいなあ」 「連れていきたいくらいなんです、けど…」 「仕方ないよね。みんな、蜘蛛は怖いんだ」 コッブが小さな溜め息を吐く。ヒールは申し訳なさそうに俯き、次いで明るい表情で顔を上げた。 「あの、コッブさん!」 「…何?」 「もしよかったら…夜、なるべく真夜中。私と一緒に、湖に行ってみませんか」 [*前へ][次へ#] [戻る] |