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二匹は暫し、近くの木の枝にとまって蛍達が魅せる舞台を楽しんでいた。
「…綺麗ですね……、タンナさん?」
返事がないのを不思議に思ったヒールが、横を見てあっと声を漏らした。
「…寝ちゃってる…」
浅い寝息を立てるタンナを、じっと見つめる。呼吸に合わせて上下する肩、寝ている間も小さく震える羽根。
だらりと投げ出されたタンナの腕に恐る恐る手を伸ばしてみた。
「…………っ」
ぶわっ、と鱗粉が撒き散らされる。そのまま腕を組み、そっと寄りかかる。
幸せそうに微笑んだヒールは、そのまま眼前にある蛍光の幻想に心酔した。
空が白む。
死んだように静かだった森が、やがて少しずつ息吹きを取り戻していく。
(…そろそろ眠いなぁ)
名残惜しく、絡めていた腕を放す。早起きの小鳥の鳴き声に、ヒールは重たくなってきた目をこすった。
「タンナさん、もう朝ですよ」
「…ぅあ…?」
ゆさゆさと肩を揺らすと、寝呆けたタンナがゆっくりと目を開ける。ヒールと目が合うと、あ、と短く漏らした。
「ごめん…また寝ちゃった」
「いいんですよ。おはようございます」
「おはよう、ヒール」
既に山の端から顔を出していた朝日が、森に柔らかい光を落とし始めた。
第一章 セイカツ
(それは、当たり前のことを当たり前にできる幸せ)
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