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「タンナさん…!」
追いついたヒールが声をかけると、振り返ったタンナの表情が俄かに明るくなった。
「ヒール!」
「どうしたんですか…なんだか、元気ないですよ」
「そ、そんなことないよ!ただ、眠れなくて…。そうだ、ちょっと来て!」
妙案が浮かんだ、というように目を輝かせたタンナは、ヒールの手を引っ張ってどこかへ向かい始めた。
「えっ、あのっタンナさん!?」
「まあまあ、着いてからのお楽しみ!」
ヒールの声が上擦っているのにも気づかず、森の奥へと進んでいく。既に辺りは闇の底へ沈み、月光だけが二匹の進路を示していた。
「着いた…!」
「っえ…?こ、ここ、今日の…」
辿り着いたのは、昼間にも訪れた湖。既に顔が真っ赤になっているヒールに、振り向いたタンナが更に手を引く。
「こっちこっち」
少し先へ行くと、そこは湖に水を注ぐ小川。
「…っ…わぁ…」
草木の繁る両岸で、無数の蛍が仄明るい光を放ちながら踊っていた。川縁で立ち止まり、その光景を眺める二匹。
「…すごい…」
「綺麗でしょ?昨日の夜にこの辺りを散歩してたら、あのみんなに会ってね」
蛍の群れに向かってタンナが手を振ると、それに応えるように光の点滅は規則性を持って踊り始めた。
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