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その頃、漸く目を覚ましたヒールは独り、散歩に出ていた。
「…やっぱり夜は寂しいなぁ…」
昼間に比べて、当然だが虫の姿は少ない。誰も彼も自分の穴蔵で寝ているのだろう。
途中、電灯に群がる仲間を見つける。しかしヒールは、その姿をちらっと見ただけでそのまま素通りした。
(いいなぁ、仲間に入りたいなぁ)
彼女が通った後には、月明かりに照らされて鱗粉が宙を舞った。
それが、彼女が仲間に入れてもらえない理由。
他の蛾と比べて、ヒールは羽根にある鱗粉の量が明らかに異常であった。
変わり者が疎まれるのはどの世界も同じ。
まして鱗粉は彼女達、蛾の求愛の為の道具でもある。そんな重要なものに異常をきたせば、爪弾き者は免れられない。
故に誰にも、友達はおろか仲間という認識すら持ってもらえなかった。
だからこそ。
「っ、!?」
その姿を視認するなり、ぶわっと鱗粉が舞い散った。背中の羽根が、落ち着きなく羽ばたく。顔が赤くなるのが、自分でもよくわかった。
「タッ、タンナさん…!」
昼間とは違う、なんとなく弱々しい様子。
どこかへ向かって飛んで行くタンナを、ヒールは慌てて追いかけた。
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