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遙か古より4




「それにしても相変わらず手の込んだ弁当だねぇ。これ食べてもいい?」




買ってきたコンビニ食はさっさと腹の中へと納め、俺が箸でつっつく弁当を指差す佐助。



時折、何を思ってかコイツは俺の弁当に手を伸ばすことがあった。


腹が空くなら多めに買ってくりゃいいだけの話だが何故かそれはしない。




「構わねェぜ?」


「ありがと!んじゃ…、卵焼き〜♪」





コンクリートの上に置かれた弁当から卵焼きを指先で摘み嬉しそうに口の中へと放り込む。






「やっぱ政宗の料理は絶品!美味しい〜♪」


「Ah?……今日の弁当は俺が作ったんじゃねェよ」






ぽつりと言葉返せば予想通り佐助の表情が曇った。





「…………やっぱ美味くないかも」






美味しい美味しいと食べていたツラはどこへやら。



俺が作ったものではない、イコール小十郎が作ったものだということを知っているからこその反応だ。





小十郎は幼い頃から俺の世話役兼教育係として伊達家を出入りしていた。


子供が懐きそうもない頬に傷のある凶暴そうな顔に鍛えているのか逞しい体。



普通の餓鬼なら怖がって懐きもしねェんだろうが、俺は父親以上に小十郎に懐いた。


家を出てマンションで一人生活している今も時折訪れては一緒に食事をしたり、他愛ない話をして過ごしている。






「相変わらず仲が悪ィな、小十郎と」


「だってあの人、俺様に敵意丸出しじゃん!好きになれるわけないって」


「そういう佐助だって片倉さんに敵意丸出しだろ?」





ケラケラと笑う慶次の言葉に面白くなさそうな顔しながらコンクリートへと寝そべり瞼を閉じた。







佐助と小十郎。







どういうわけだかガキの頃からこの二人は仲があまり良くなかった。



慶次には優しい小十郎も何故か佐助には厳しい。






「そういや片倉サンは知ってるの?力のこと」




相変わらず瞼は閉じられたまま問い掛けてきた言葉に弁当を片付けながら俺は頭を左右に振る。





「いや、言ったことはねェ。だが鋭いところがあるから気がついてはいるかもな」





昔から俺の僅かな変化すら見逃さない小十郎。


嬉しく感じる反面そんなに分かり易い程、言動に表れているのかと悲しくもなる。






「片倉さん、政宗大事にしてるからね」


「ほんっと目障りなほど政宗様政宗様煩い」


「そう言うなって」





宥めるようとする慶次だが一度曲がった臍は早々に治るはずもなく、ブツブツと文句を言いながら眉間に皺を寄せる姿は言っちまったら怒るんだろうがどこか微笑ましくも感じる。





「ねぇ、政宗。バイト代も随分貯まってきたしさ、政宗のマンションに転がり込んでいい?」



いつまでも大将のところで世話になるのもね〜、と飄々と笑みを浮かべ言葉続ける佐助。







佐助は実の両親の顔も名前も知らない。


だがどんな人なのか、どういった理由で捨てられたかなんて別に興味もないらしい。





「ちゃんと家賃も入れるし家事だってするし政宗には迷惑かけないからさ」





閉じられていた瞼が開き反動つけて体を起こすと掌を目の前で合わせどこか必死な様子。



早いところあの場所から離れたいらしい。




気持ちは痛いほどよくわかる。

わかるにはわかるが佐助とマンションに住むとなれば当然小十郎は黙っているはずもない。



それに慶次は何も言わず佐助の言葉にただ笑っているだけだが、恐らく家を出たいという気持ちは同じなはず。




「テメェはいいのか?慶次。三人ぐらいならあの部屋でも何とかなるだろ」


「ん〜…、そうだなぁ。有り難いけどギリギリまでは家にいるよ。佐助の邪魔しちゃ悪いしね」










ギリギリまで………








俺や佐助と違い慶次にはちゃんと血の繋がった家族と一緒に暮らしてる。



一度遊びに行って両親にも会ったことがあるが幸せそうで暖かな家庭だった。




きっと力を手に入れて一番後悔したのは慶次だろう。






誰よりも兄や両親が幸せであることを願っている慶次。


いつかは黙って家族の前から消えなければならないことにきっと心を痛めてる。











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あきゅろす。
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