PARTT『Cause』
 


 レストは悩んでいた。どうすれば、この固く閉ざされた扉は開くのか、と。押して駄目なら引いてみたし、トリックを怪しんで横スライドも試した。しかし扉はその存在感を誇張するかのように彼女を拒み続けている。レストは深い溜め息をついた。どうやら自分は招かれざる客なのではないかと、一抹の不安を抱えながら。

 レストは、選ばれし才を持つ子供しか入ることの許されない特別なスクールで『魔法』を学んでいる見習い魔法使いである。スクールを卒業するにはある程度の魔法習得率を見る為の適性審査をクリアしなければならないのだが、レストに下された結果は“卒業保留”。スクールを卒業するまでは一人前の魔法使いとして扱ってもらえないどころか、職が与えられない。魔法使いの道を選んだ者は、魔法を使わない者と同じ社会で生きていくことを良しとしない暗黙のルールも存在する為、レストに残された道は何としてでも卒業することのみであった。そこで打診を繰り返した結果、ひとつの条件をもって彼女の卒業が認められた。

“ある男に師事し、直接合格証明を受け取ること”

 そのある男が居るという屋敷に、今レストは来ている。扉の前で待ちぼうけを食らうこと数十分。呼び鈴があればとうに押しているが、生憎それらしいものは見当たらない。

「……あ、そうだ! 何か大きな音を出せば気付いてくれるかもしれない」

 レストは天を指すように両手を広げた。

「えいっ!」


 ドオォォォン!!!!


「きゃあっ!」

 レストの計算では大きな花火が天高く上がる筈だったが、火花の塊はレストの頭上低空、屋敷の天辺には程遠い位置で破裂した。自らが放った魔法で尻餅をついたレストは、あーあ、と息を吐いて服の塵を払いながら立ち上がった。

「どうしてこう、いつも上手くいかないんだろう……」

 レストが視線を自身の手のひらに落とした、その時。


 ガチャ……


 扉の奥で、重く響く鉄の音。そして、ゆっくりと、開かれる。

「貴様か、この俺の屋敷の前で火遊びした馬鹿は」

 長身痩躯、容姿端麗、輝く黄金の髪が映える男が、低く言い放った。

「あっ、あのっ」

「話は聞いている。入れ」

 男の眼光に触れたレストは、それ以上言葉を口に出来なかった。促されるまま、屋敷の中へと足を踏み入れる……。




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あきゅろす。
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