プロローグ


何より先に、誰かに聞いて欲しくて。
自分は此処だよ、と伝えたくて。
愛する人に想いを届けたくて。
人は歌うのかもしれない。

でも、こう考えるのはどうだろう。

覗かれたくなくて。
暴かれるのが怖くて。
表面を虚勢で覆って見えなくしてしまう。
言葉で心に鍵を掛ける。

つまりは、そういう歌も、あるってこと。




『僕らの歌を聞いてください』

 週末のライブハウス。ひんやりとした石壁、特等席に凭れかかる私。いつものように夜は熱を帯びていく。
 特に観客を沸かせもしない平凡な挨拶の後、本日3組目のバンドの演奏が始まった。グラスに残った氷をストローで掻き回しながら、私は時計を気にする。

 そろそろ帰らなきゃ。宿題もあるし。最近は見回りも強化されているから、高校生もおちおち深夜に出歩き出来なくなってきている。

 空のグラスをカウンターに返して、ステージに背を向けた。だんだん遠くなっていく歌声が、今日はやたら耳に纏わりついて離れなかった。



     【Voice】




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