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思いもよらない事が起こる世の中。
自分の身に何が起こるかなんて。
誰にもわからない。
「失礼します。」
軽いノックの後に、そのドアを開けた。部屋の主の許可はとらない。
「おはようございます。」
なぜなら、部屋の主は未だ夢の中にいるから。
一声掛けたくらいで覚醒しないことは、百も承知している。
が、一応声を掛けるのが、私の仕事。
大きなベッドの上の真ん中に、白い小山が出来ていた。その小山が微動だにしないのを確認して、軽い溜め息を漏らす。そして、ベッドに近づいた。
「朝ですよ。起きてください。」
遠慮は無用、とばかりに、ベッドの上の白い塊をゆさゆさと揺さぶった。ところが、反応は返ってこない。
しばらく揺さぶっていたが、全く反応が無いので、その手の動きを止めた。
溜め息が、また一つ。
身動き一つしない塊を覆っている、その白い上掛けに手を掛けた。思いっきり引っ張り上げると、その力に反抗するように、上掛けを元の位置に引き寄せる力が掛かった。
それに構わず、力の限り上掛けを引っぺがした。
「う〜〜・・・」
上掛けを取り上げられると、先程まで反応を見せなかった塊が、唸り声を上げた。引っぺがされた上掛けの下から、丸くなった人が現れた。
「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す!」
わざわざ一音ずつ切って、その声に合わせるように、その人に手を掛けてゆさゆさと揺さぶった。ここでも、遠慮はしない。
「ん〜・・・」
しばらく背中を向けていたベッドの上の人が、ごろり、と寝返りを打ってこちらを向いた。
その顔は、睡眠を妨害されたからか、見事なしかめっ面だった。目は、未だ閉じられたまま。
いい加減に、起きてくれ・・・。
呆れながらベッドの脇でその人を見ていると、やっと、重たそうに瞼が開いた。完全に覚醒し切っていないのが丸分かりで、目が虚ろ。このままでは、また寝入ってしまいそうだ。
あまりこの人に構いたくないんだけど。
「声はお掛けしましたからね。後は自力で起きてください。」
寝起きの悪いその人に見切りをつけて、ベッドから離れようとしたその時。
「ぅあ!?」
腕を掴まれて、後ろに引っ張られた。
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