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「伏せて下さいっ!」


 発砲音とほぼ同じタイミングで空を裂いた台詞に対し、素直に真那はしゃがんだ。と同時に、視界を黒い色で閉ざされる。


「珠洲帰 樒さんですね?貴方に逮捕状が出ています。罪状は――」


 間一髪のところで奏歌が割って入り、コートで銃弾を防いでから冷静に目の前の男――珠洲帰 樒(すずき しきみ)に話しかける。


「罪状は『多すぎるから以下略』」

「よくおわかりですね」


 平然と遣り取りする二人。奏歌は続ける。


「今回の倉庫を狙った一連の窃盗で、貴方が発生させた事件、若しくは犯人と推測される事件は300件を突破致しました。おめでとうございます」

「鬱病のガキに褒められても嬉しかねー」


 慇懃でいてずれた賛辞にも、樒の答えは覇気が皆無。
 そこで静観していた真那が叫んだ。

「やい馬鹿シキリ!不幸男が素直に人を褒めるなんて一年に一回あるかないかだぞ?!貴重なんだ、有難く受け取れ!」

「だからいらねー。あと、『シキリ』じゃねー。何回も捕まえかけといて、名前覚えてねーのか」


 低い声音の反論が済んだところで、真那のこんな叫びが鳴り渡る。


「はん!悪人は『神に愛される道化』たるボクの前に成敗される!!ただ倒されるだけのザコなら、シキリでもキシルでもキシリトールでも構わないのだ!!お前も早くこのボクに倒されるがいい!」


 いかにも自分が正義である、そう言わんばかりの彼に樒からの応答はない。否、厳密には音となるものがないだけであって、表情は今までの面倒そうなものから、ぽかんと口を開けたものに変貌している。

 


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あきゅろす。
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