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この際、それはいいとしよう。

給料が良くなったお陰で、田舎への仕送りも増やせた。衣食住保証付きのお陰で、日々の生活費の心配もしなくて良くなった。

はっきり言って、今の仕事にも遣り甲斐を感じている。

生活的には、庶民の生活の方が性には合ってるが、メイドの仕事さえきっちりこなせば、無理に貴族の生活スタイルに合わせなくてもいいと言ってくれた。

何だ、申し分無い職場じゃないか。

だがしかし。

あの、エレクという男の扱いだけは、未だにどうにも出来ないでいた。
慣れるなんて、絶対無理だ。さっきのようなことも、我慢ならない。

エレクは、そりゃあ顔はいい。見目の麗しさだけを言えば、あんな男をいい男と言うに違いないし、そんな見た目のいい男、エレクに会うまで見たこと無かった。

そう、顔だけはいいのだ。

問題は、性格にあった。

あの男、どうにもナルシストっ気がある。
自分の容姿、頭脳、家柄、その諸々が良いことを、しっかり理解している。理解しているからこそ、自分に絶対の自信を持っている、と私は推測している。

しかもこのエレクという男、自分の顔や地位を目当てに寄って来る女が嫌いらしい。それを理由に、屋敷で働いていたメイドを全て辞めさせたくらいだ。
お陰でこのお屋敷には、メイドは私一人っきりだ。

そのせいなのか何なのか、ヤツは何かというと、私をからかって楽しんでいる。私のような反応を示す人間、特に女なんて、エレクの周りには居なかったらしく、私はヤツにいいようにオモチャにされていた。

手を出されても、耐えればいいのだ。それは分かっている、分かっているのだが。

理性と体というのは、いつでも協力関係にあるとは限らない。

エレクに対しては、ほんの些細な悪戯でも、理性という線は簡単にプッチーン、と切れてしまうのだ。
例えば、さっきのように。

その反応がエレクを益々助長させているのは分かっているのに、どうにも抑えられない。
私がこのお屋敷で働きだして、一体何本の線をヤツはぶっちぎったことか。

数えるだけで、腹が立つ。

 

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あきゅろす。
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