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コンコンコン。
「はい。」
「洗濯物持って来ました。」
ややあって、目の前のドアが開かれる。目の前に立っていたのは、人に好印象を与える笑顔を湛えた、長身の青年。茶色の強い、少し長い黒髪を、後ろでちょこんと結んだ、小振りのメガネを掛けた、好青年。
「お疲れ様です。」
「いえいえ。ついでにベッドメイクもしちゃいますね。」
「よろしくお願いします。」
自分の分の洗濯物を受け取った好青年のお兄さんが、道を譲ってくれて、部屋の中へと入った。カゴをドアの傍に置き、クローゼットから真っ白できちんと畳まれたシーツを出し、ベッドへ向かう。
掛け布団をどけ、シーツを剥ぎ取り、バサッと豪快に、真っ白なシーツを広げる。それを丁寧にマットレスの上の敷布団に掛け、端を折り込む。
皺無く敷かれたシーツの上に、掛け布団を戻し、最後に枕カバーを交換した枕を置いて、ベッドメイク完了。
我ながら、完璧。
「いつもご苦労様です。」
自分の洗濯物をクローゼットに収めていたお兄さんが、振り返りながら言った。
「いいんですよ〜、これが私の仕事ですから。」
そう、これが私のお仕事。・・・今の。
私は、以前、違う仕事をしていた。
「リザリーさんがここへ来て、三ヶ月ですね。」
クローゼットのドアをパタリと閉じ、好青年のお兄さんがこちらを振り返りながら言った。
リザリーとは、私の名前。フルネームは、リザリー・メーリケ。
現在の職業、使用人。所謂、メイド。
そして、先程から穏やかに笑みを湛えているこのお兄さんは、ルイード・メルフェスさん。
職業、執事。若いのに、とても立派な人。
「ここには、慣れましたか?」
ここ、というのは、現在の私の職場。正確に言うと、街で一、二を争う上流名門貴族、ブランディル家のお屋敷。
「慣れましたよ。・・・・・・仕事には。」
そう、仕事には慣れた。お屋敷の人は基本的にいい人だし、給料も格別。職場としては申し分ない。
たった一つのことを除いては。
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