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 さぁ こちらへ

貴方の為の
極上の一皿で

最期の夜を
  共に過ごしましょう






「こちらにございます」

 老婦人が恭しく礼をし扉を開け放ち、家屋に一人の少女が迎え入れられた。

「狭い家ですが、ご堪忍ください」

 少女は促されるまま長椅子に座り、腰に吊っていた革のホルスターを外して膝に置いた。中に収められている、銘の無い小銃の重みが、直接体に伝わる。

「黒条教団のヴィリアさん、でしたね?」

「はい」

 薫り立つティーカップをテーブルに並べ、老婦人はヴィリアの向かいに座った。やがて、溜め息をひとつ、口を開いた。

「わざわざ遠い所からお越し下さり有り難うございました。先日依頼の御手紙を差し上げました、テレジアと申します。依頼内容は…それに書き記した通りです」

 ヴィリアは首肯して答えた。

「『この街に古くから住み着いている人喰い魔女一族がいる』そうですね。しかし、我々に依頼をしたということは…」

「お、お待ち下さい。貴方々が彼女達の討伐を専門にしていることは承知です、しかし…他に誰が、この願いを聞いてくれましょうか」

 テレジア夫人の目に焦躁の色が宿る。続く言葉は、こうだ。

「……この街の外れに、昔日の領主様が住まわれていた御屋敷がありまして、そこには現在、二人の魔女が住んでおります。普段私達に顔を見せるのがアレアロさん、それからもう一人、マニさんという小さな女の子がいるそうです。

 アレアロさんは時々街に下りてきて、買い物などなさることがあります。とても気さくで、街人の誰とも仲が良く……今でも人喰い魔女だと信じられません。本人の口からこの言葉を聞いたときは、天地がひっくり返ったような眩暈を覚えました。

 ここからが本題です。最近、作物庫からよく野菜がなくなって困っていると、皆さんが口を揃えておっしゃるのです。そして、マニさんと思われる女の子を畑で目撃したと言う証言もあります。

 アレアロさんのことを信用していないわけではないのです。ただ……私達は人間で、彼女達より遥かに弱い存在です。彼女達に対して全く恐怖を感じないと言えば嘘になります。
 何かの間違いだと良いのですが、何しろマニさんのことは私達もよく解らなくて……お願いします、私達の生計が懸かってるのです。どうかこの一件を調べ、解決して下さい」

 テレジア夫人の話が終わると、ヴィリアは物言わず立ち上がった。

「……了解しました。調査してみます」

 短く返したヴィリアは、そのまま静かにテレジア夫人の邸宅を後にした。

 

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