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「い…」

「………?」

「…あ、ああ…何でもない。そうね…目的を見失うところだった」

 まるで空の一部を切り取って貼り付けたような蒼穹の色をした瞳。同系色の襟巻きを風に流して、少女は立っていた。
 好都合にも自ら出向いてくれた少女を、ヴィリアはじっと頭頂から足先まで眺めた。

「……やはり。噂は出任せ、か。恐らくは…長老とやらが元凶の」

 少女が生粋の人間であることは、ヴィリアの魔女に対する心眼をもってすれば一目瞭然。ヴィリアは微かな憤りを感じながらも、出来るだけ少女に冷遇しないよう、眉間に寄せた皺を解き優しく問い掛けた。

「…あなたは何処に住んでるの」

「………」

「解らないの? …では、あなたの名前は」

「………」

 相も変わらず返ってくるのは板に付いた弛緩した笑み。

「……あなた、口がきけないの?」

 ヴィリアが少々強い口調で問うも、少女は首を傾げる素振りばかり。

「…何て事。誰もあなたに言葉すら教えてくれなかったようね」

 そうと解ると、途端に何を話す気もなくなり、再び沈黙が返ってくる。

「……じゃあ、私はもう行く。あなたの無実を証明しに」

 言い残して、ヴィリアは再びテントに向かい進み始めた。


 背後に足音。短い歩幅で忙しなく歩く少女の足音。

「何故ついてくる」

「………」

「……?」

 少女はとことこと近付くと、ヴィリアの服の裾を掴んだ。

「……何、どうしたの」




  銃声。




「……スフィ!!!」



 咄嗟の出来事だった。気が付けば、ヴィリアは少女の腕をぐいと引っ張り自分と密着させ、右手には小銃。牽制の発砲。睥睨。反撃はなし。

「…怪我は?」

 間一髪、弾は少女の長い襟巻きの裾を穿っただけだった。案じたヴィリアはひとまず胸を撫で下ろした。しかし直ぐさま、自分の行動に不可解な点が浮上する。


  『スフィ!!!』


「スフィ…?」

 すると少女の肩がぴくりと跳ね、あたかも主人に名前を呼ばれた忠犬のように、ヴィリアに熱い憧憬のまなざしを向けていた。

「あなた……スフィっていうの?」

 また自分の名前を呼んでもらえた。少女…スフィは爛々と目を輝かせる。


 腑に落ちない。


「何故……私が……」


 この娘の名前を

 知っていたの?

  


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