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「この世に産み落とされてしまった悪意……人喰いの血を滅ぼし、再び人間の生存を脅かされることのない世界を創る。それがマザーがアタシたちに課した使命。貴女の復讐が人喰いの殲滅なら、それだけを考えて戦いなさい。それに」
少女の強張る肩に優しく手を置き、片目を瞑る仕草でおどけてみせる迷糊。
「この組織の幹部は、強さや統率力の問題じゃないわ。ちょっと異常なの。目指して成るものでは決してないわ」
「どういう、ことでしょう」
「彼らは派遣部隊の類ね。稚拙な言い方をすると、バケモノ退治をする為に別のバケモノの力を借りてる感じかしらね。どちらも人の手には余るわ」
「……」
「あー……今の話は忘れて頂戴」
「金先生ー! オスト様がお見えですよー!」
二人の会話を裂く青年の声が鍛錬場中に響き渡る。迷糊が睨んだ先には、慇懃な笑みを浮かべたオストが開かれた扉の外に立っていた。
「ごめんなさいクロワ、アタシ行くわね」
「は、はい」
溜め息を吐き出すと、迷糊はオストの元へ歩み寄る。
「アタシに何の用かしら」
「マザーが迷糊さんをお呼びでしたので、お伝えに参りました」
「マザーが? さっき話は済まなかったのかしら」
「お早く出向かれますよう。私はこれにて」
「……執事ちゃん、さっきの、聞いてた?」
踵を返すオストに、迷糊は投げかける。
「さて、何のことでしょう」
顔色ひとつ変えずに返すとオストは、暗い回廊に消えていった。
「まったく……いけ好かねぇ野郎だ」
迷糊の低い呟きは喧騒に掻き消え、誰の耳にも届かなかった。
→part5
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