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「好きに掛かって来なさいな」
「ではお言葉に甘えます」
床を蹴り、一気に間合いを詰めるクロワ。見舞った一振り目は、迷糊の薄手の手甲に軽々受け止められた。すかさず振り上げられた迷糊の足を仰け反り躱すも、掠めた前髪がはらりと散ったのが見えた。次の刹那には迷糊はクロワの背後から蹴りを次々と繰り出す。対するクロワは息絶え絶えに躱すので精一杯のようにみえた。振り回す剣はことごとく空を切りつける。最後に力一杯振り上げられた剣は、迷糊の蹴りに弾かれ、固い床の上に無機質な音を立てて転がった。
「全部避けられたなんて、また腕を上げたわね。でもやっぱりいまひとつなのは、それの所為だと思うけど」
迷糊はクロアが慌てて抱えた銀色に光る細身剣を指した。
「得意の武器で勝負した方が良いんじゃない? 貴女、弓を使わせたら右に出る者は居ないって評判じゃない」
「確かに飛び道具は戦地で優秀ですが、たとえ丸腰でも相手が《奴等》の場合意味を成しません。狙撃をしようにもすぐに気配を取られ、瞬時に懐に入られてしまうでしょう」
クロワは続ける。
「それに、この銀のレイピアは、母の形見なんです」
「……復讐、ね。貴女のそれが揺るがないのは解ってるけど、手を染めたら最後、この先決して幸せには成れないわ」
「解っているつもりです。……私はもう、取り返しのつかないほど穢れている」
拳を握り締め、意を決したように少女は言葉を吐き出す。
「先生、私もいつか、先生のように成れるでしょうか。教団の幹部として、少しでも多くの《奴等》を」
「やめた方が良いわ」
迷糊が遮ったので、クロワは翡翠の目を見開いた。そして開かれる彼の唇に視線を遣る。
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