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 教会地下の冷ややかな石壁と蝋燭の頼りない灯りが包む部屋のひとつは、戦士達が各々に技を研ぎ澄ます為の鍛錬場になっている。迷糊が扉を開けると、ひしと空気が冴えた。

「待たせたわね。それじゃ再開するわよ」

「はい、金先生!」

 若者たちは柔軟や組み手を始めた。その様子を迷糊は眺めている。

「おかえりなさい、金先生」

 一人の少女が迷糊の元に駆け寄る。

「あらクロワ。久し振りね。元気だった?」

「先生こそ、いつも任務に出掛けられたら暫く戻らないので、いつも身を案じておりました。あ、でも私などに心配される必要が無いくらい先生がお強いのは知っています。でも、ええと」

 大きな翡翠の瞳を落ち着き無く動かしながら、クロワという少女は迷糊を熱っぽく見上げた。

「クロワは優しいのね。有難う」

 迷糊は手を伸ばすと、少女の短い黒髪を優しく撫でた。

「アタシも貴女と同じ《人間》だもの。時にヘマもすれば、こうして無事を祈ってくれる人の為に強くなれたりもするのよ」

「先生……」

「クロワ、久し振りに手合わせしてあげるわ」

「ほっ、本当ですか。是非お願いします!」

 迷糊の誘いにクロワは瞳を爛々と輝かせた。鍛練場の一角の格子で区切られた試合場で、二人は向かい合った。迷糊は拳を、クロワは剣を構える。

 

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あきゅろす。
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