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 咄嗟に身体を捻って避けた少女の漆黒の髪をかすめて、銃弾が壁に刺さる。続け様に何発も放たれた銃撃は少女の脚を穿ち、逃げる術を奪う。

「貴方、はじめか、ら、これを狙、って」

 息を乱したシャロネが獣の眼でランスを睨む。睨まれたランスはのたうつ少女の細い身体を支えるように抱きかかえると、耳元で囁く。

「……僕が最期だよ。例え不服でも。君では僕に抗えない」

 そのまま少女の白い首筋に舌を這わせ、歯を突き立てた。ランスの白く整っていた歯は、赤い血にまみれながら狼の牙をように鋭く形を変えていく。少女の青白い顔は、すべてを悟ったように半月の笑みを浮かべていた。

「……不服、じゃな、いわ。吸って、全部、全部……」

「ああ……御機嫌よう、レディ」


 やがて少女が意識を手放すまで、ランスは牙を宛行い続けた。

「一体どれだけの血肉を喰らってきたのか……汚れに満ちた血だ」

 口に溜まった血液を床に吐き捨てると、ランスは再び銃を手にする。輝く銀色の銃身、銃把には朱塗りの紫陽花の装飾が施された珍品だ。黒灰色の弾丸を取り出し、銀の弾丸を装填し、引き金を引く。心の臓を穿たれた少女の身体はびくりと跳ねた後、また鮮やかな赤を撒いて動かなくなった。

「さて……うちの不死鳥様にバレないことを祈ろう。君ももし“彼女”に会っても黙っててくれよ」

 聞き手の居ない言葉を吐いて、ランスは一人、呆れたように笑った。


 村を脅かす連続失踪事件は、村一番の美女の犠牲をもって、ぱたりと途絶えたのだという。


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あきゅろす。
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