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 ―――オ嬢サン ドアヲ開ケタラ 最期ダヨ



 七日目の夜が来た。鼻歌交じりに鉢植えの剪定をする少女の家を訪ねる男の影があった。昨日までの来客とは違う、力強いノックの連続に、作業の手を止めて迎え出る。

「はぁい、どちら様かしら?」

「……こんばんは、シャロネ嬢」

 訪ね人は、皺の無い深緑のスーツに身を包んだ金髪碧眼の男。

「貴方……何故」

「昨晩はどうも。お陰様で、寂しい夜だったよ。……野宿なんて数える程しかしたことなかったから、新鮮ではあったけどね」

 前日シャロネの部屋で気を失ったこの男を、彼女は森に放った筈だった。やがては、動物達の餌になると計算して。

「確かに、殺したと思ったのに」

 青ざめる少女に、男は告げる。

「毒で死ねるような身体だったらと、何度も願ったことがあるよ。もう幾つ目か判らない、今の名をランス=ライヒと申します」

 男が懐から出したのは、一輪の深紅の薔薇だった。 差し出されたシャロネは目を丸くした。

「これは、何の真似」

「何の真似、とは。約束はまだ有効だろう?」

 シャロネは男の言葉が信じられないというように、頭を横に振りながら早口になった。

「毒が効かなかったとはいえ、貴方を殺そうとした私に、まだ御機嫌取りしようとするの? そもそも貴方は一体何者?
私の調合は間違いないし、貴方もちゃんと一口以上飲んで……」

 言い切らないうちに、男がずいと歩み寄った。手を伸ばし、白く透き通った頬を撫で、整った顎に指を這わせる。

「少し黙れよ」

 冷たく言い放った言葉と裏腹に、優しいくちづけが少女の唇を塞いだ。最初は驚き嫌がる素振りをした彼女も、次第に潤んだ瞳で長い長い行為を受け入れていた。どちらからともなく唇が離れた時には、女の顔をしたシャロネが男を見据えていた。

「その気になったかい? シャロネ嬢」

「……今夜は暇だから遊んであげる。勘違いはしないでね」

 男は小さく笑って頷くと、少女を抱き上げ、部屋へと入っていった。



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