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 日没から数時間。村の一角にある酒屋は、仕事を終えた男たちで賑わっていた。農耕をする者、鉄を打つ者、硝子を細工する者などが会する中、ただひとりの来訪者だけが、異様な空気を放っていた。
 村の男たちが一様に仕事汚れが目立つ服を身に着けているのに対し、彼はしっかりと折り目の付けられた濃緑のスーツを優雅に着こなしている。羽織った外套にも汚れひとつ存在しない。彼が店に入りカウンターに近付いた瞬間、周囲の人間は彼を奇異な目で観察していた。

「……余所者かい」

 カウンターの店主がぶっきらぼうに尋ねた。悪意は無いことが判ったので、男は青い目を細めながら答える。

「旅の者です。この村を通り過ぎて進む心算だったのですが、村に住む絶世の美女の噂を耳にしたものだから、一目お会いしたいと思いましてね」

 男の話を聞いた店主は乱杭歯を剥き出しにして笑った。

「なぁんだ、色男。お前さんもシャロネ目当てか」

「シャロネというのですね、その女性は」

 ランスが女の名を反復した。

「ああ。ただ、あの娘は一筋縄じゃいかんぞ。今まで求婚した男たちは皆ことごとく玉砕してきたからな」

 店主がにたりと笑うと、店の中に顔を曇らせた男が何人かいた。

「シャロネがこの村に来て何年経ったか……あの娘はずっと一人で住んどる。最近はおかしな事件が増えとるし、そろそろ所帯を持ったほうが安心だと思うんだがな」

「おかしな事件?」

「住人の失踪事件さ」

 店主は小声で語り始める。

「これまでに両手の指ほどの男たちが行方知れずのままだ。独り身の奴が多いが、家を守っていた妻子を残していった者もいる」

 ランスはへぇ、と関心を示す素振りを見せた。

「それは末恐ろしい。麗しいレディの身に何かあっては困りますね。……僕も多少は腕に自信のある身、この手で護って差し上げられたら」

 店の中の男たちは気障なランスの言動に些か面白くないといったような顔をしていたが、シャロネという女性の身を案じる気持ちから、異を唱える者はなかった。
 ランスは店主からシャロネの家の場所を聞き出すと、酒に全く口をつけることなく店を後にした。




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