[3]
……ヴィリアは改めて、自分のおかれた状況を確認した。
ヴィリアと長老、二人を取り囲むように集う大人達。その、冷え冷えとした空気は、果たしてヴィリアの思い過ごしなのだろうか。
次第に感情的になりゆく長老の話に、周囲の者達は呆れ返ったように冷えた目線を浴びせている。
どうやら実際、人喰い魔女の疑いがかけられているあの少女に、ここまで本気で憎しみの情を現にしているのは、長老ただ一人。
魔女? 何処から見てもあの娘は人喰いと結びつかないだろう。
確かに普通じゃないけどね、あの娘が何をしたっていうんだい?
ほうら、魔女狩りさんの言う通り。やっぱりあの娘は無関係なんだ。
口には出さずとも、皆が言っている。あとは皆、この憐れな老人にどう阿るか、悪意なくして思っているだけに過ぎないのだろう。
一呼吸おいて、ヴィリアが告げる。
「解りました。では、もう一度彼女に会い、事の真偽を確かめましょう」
それからゆっくり立ち上がり、
「これだけは言っておきます。私は絶対に人殺しの依頼は受けません。我々が手にかけることを赦されているのは、人間に害為す“人喰い魔女”のみです」
「……諒承した」
そう口では言ったものの、長老の目の奥で復讐の炎が滾っているのは、その場の誰が見ても明白だった。
とにかく、少女に会う必要がある。ヴィリアはテントを出ると、先刻少女が居た大木を目指した。
取敢えず少女が座っていた場所まで来てはみたものの、当の少女はおろか人影ひとつ存在しない。吹き抜ける風が木の葉を揺する音が閑寂を引き立てる。ただ、それだけ。
「……何処に居るの」
ヴィリアが零した呟きも、すぐに大気に融けて消える。
途端に襲う空虚感。同時に、ヴィリアは自身に蟠りを覚えていた。
――戦火の絶えない大地に産み落とされていたという自分。
マザー・リリオールに拾われ教団で生きるようになり、それからというもの一度も日の目を見ることなく対魔女戦争に駆り出される日々を送っていた。
初めてナイフを握ったのは3歳の頃だった。初めて銃を使った私は4歳だった。初めて魔女を手にかけたのは……
勿論、自分もその場に居て体感していた筈だ……ビーリアルが黒条教団を襲撃した、忌まわしき惨事を。
何故、思い出せないのだろう。
そして、断片的な記憶が示すのは、欠落した場面。雑音混じりの声音。落ちた闇。燃える天。血の匂い。
「…………」
「…………?」
何? 急に視界が暗く…――
我に返ったヴィリア。真っ先に目に飛び込んできたのは、空色の大きな瞳。鼻先同士が掠め合う程、顔と顔とが接近していた。
「!!」
ヴィリアは条件反射で後退り、咄嗟に受け身の体勢をとりつつ、その手には随身…短剣が滑り出てきていた。
柄に埋め込まれた白磁の徽章『朱き薔薇』……。並べ見ると顔を覗き込んでいたのは、ヴィリアが探していた、例の少女だった。
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