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「アントロ……何だ、それは」

 床で掠れた呼吸を続ける少女をアレアロは見る。その横に転がった死体に視線を移した所で、彼女は凍りつく。

「喰ったのか……マニが」

「人喰い魔女と呼ばれる者の中に時々現れる、食人衝動のカタマリのような生物。我々は《アントロポファグ》と呼んでいる。食欲の為なら理性も……主人の命令すら忘れるような連中だ」

 小さな呻きが、消えた。

「硝酸銀の弾丸を撃ち込んだ。生き永らえる術は無い」


「貴様……よくもマニをっ!!!!」

 怒号。飛び掛るアレアロ。ヴィリアは咄嗟に壁を駆け上がり、背後に周り込むとアレアロの頭を目掛け引き金を引いた。銃弾は彼女の肩を掠めて扉に刺さった。白い肌に薄く血が滲んだ。

「初めから殺し合いは避けられないと思っていた。《ストリゴイ》アレアロ、此処で始末する」

 言い放つと、ヴィリアは階段を飛び降り、大部屋前の広間に降り立った。
 殺気。ヴィリアは瞬時に後方へ跳躍。元居た場所に置かれた骨董時計が、舞い降りたアレアロの強烈な蹴りで無惨に砕け散る。並の人間が体で受ければひとたまりもないだろう。
 アレアロは両手両足を床につき、獣の様な姿勢でヴィリアを凝視する。対するヴィリアも左足を後ろに臨戦態勢をとる。

「銃は使えそうにない」

 接近戦に持ち込もうと間合いを詰めるヴィリア。

「ハッ、道具を使わずに人間が私に太刀打ち出来ると思うのかい!」



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