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「アレアロ嬢、すまんが手洗いを借りれるかね」
すっかり酔いの回った恰幅の良い男がふらりと立ち上がった。
「おう、精肉店のジェラールか。いつも世話になってるな。階段を上った突き当たりにバスルームがあるから好きに使ってくれ」
「ああ、有難う」
主催者が主催者な為か、席に着いて数分は優雅な会食だったのが、今は見る陰も無く豪快な酒宴と化していた。葡萄酒の空瓶は床に散乱し、皆大声で騒ぎ立てている。中にはうとうとと舟を漕ぎ出す者もいた。いつまでも結婚しない娘の話、恐ろしい女房の話、新しい事業に成功した話……それぞれが思い思いに語る。アレアロは皆に次々酒を注いで回っていたが、とうとうヴィリアとの一騎打ちになっていた。
二階の奥の部屋。宴会の賑わいに耳を傾けながら、独りうずくまる少女の姿があった。
「おなか……すいたに」
まるで大地が罅割れたような音で、少女の胃は空腹を訴えていた。
「アレアロ……マニにもご飯もってくる……忘れてるにか……?」
立ち上がろうとした少女。足に力が入らない。回る天井。部屋を飛び出す。
「ちょっとだケ……下に……たべモの、もらう……」
霞む視界。
「たべたい……」
たべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたい……
「ええと……バスルームは、っと」
酒の匂い。ソースの匂い。オリーブ、バジル……肉の匂い。
脂の匂い。汗の匂い。血の匂い。
「ニンゲン」
たべたい
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