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談笑の食卓はたけなわ、客は皆止め処なく酒杯を傾け、すっかり酔いが回っていた。ヴィリアも勧められるがままに何杯も飲み干してはいたが、顔色ひとつ変えずに、スープを啜ったりパンを噛じったりしていた。
宴の主、アレアロも覚束無い足取りでヴィリアの隣を陣取る。
「ヴィリアよ、此処へは旅をして来たんだってな。詳しく話を聞かせてくれよ」
尋ねるアレアロの目は喜々としていた。ヴィリアは億劫そうに渋々口を開く。
「旅と言っても、移動はすべて仕事の為です。護衛の依頼を受ければ如何なる場所にも参じなければなりませんので」
「へぇ、そんな細腕で用心棒たぁ、余程腕が立つんだねぇ」
少し舌足らずにアレアロが絡む。その目が何かを捉えると、
「あぁ……もしやその銃の凄腕というわけか。微かに銀の匂いがする。怪物退治でもする気かい?」
勘繰るアレアロ。いくら酒に酔っていても、人間より遥かに嗅覚の優れた彼女が訝るのも無理はなかった。だがヴィリアは動じない。
「これは支給品です。義務ゆえ持ち歩いておりますが、射撃は不得意なので滅多に使うことはありません」
語った内容はすべて事実だった。徽章入りの武器は短剣。ヴィリアは近距離戦を得意とする戦士なのである。
「エモノに頼らず己の腕で戦うのだな。ますます気に入ったぞ、ヴィリア。私は強い奴が大好きだからな」
陽気に笑うアレアロがどんどん酒を空にする。ヴィリアも注がれるままに次々と葡萄酒を流し込んでいった。
事件はこの後起こった。
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