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「しばし顔を見なかったのぅ。元気にしておったかえ?」

「……はい、マザー」

 黒条教団において“母”と呼ばれるべき存在……齢を感じさせぬ妖艶たる美貌、何気無い仕草に漲る威光、すべてがこの世のものではあらぬと錯覚させる、そういう物腰の女性……それが彼女、“マザー”リリオールであった。

「いきなり呼び出してすまなかったのぅ。ついては、わらわは愛し君に言っておきたいことがある」

「……なんなりと」

 リリオールは寝そべっていた身体を起こし、ヴィリアと向き合った。

「愛し君の望みが、もうじき叶えられよう」

 ヴィリアの目の色が変わる。リリオールは続ける。

「聞いておくれ。大切なのは、愛し君が記憶を取り戻すことにあらず。すべて思い出した時、愛し君が置かれた状況を、受け入れられるかが問題ぞ」

 水の底のような暗さの大広間に、柔らかな燭台の炎が二人の影を落とす。リリオールの口振りは厳かだった。

 

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