卒業
5
顔をそらすこともできず、できる抵抗は目を泳がせることだけ。
「…っなんで、言わなきゃいけねーんだよ。お前は…」
何も言ってくれなかったのに。
俺がそう続けようとしていたことが、望にはわかったのか、言い終わる前に返事を返される。
「うん。何も言わなかった。ごめん。……で、どう思ってるの?」
謝罪の言葉もそこそこに、もう一度問われる俺にとって答えにくい質問。
俺はまた逃げることしかできない。
「…だから、もう遅いんだって。」
今さら望が謝ったって同じ高校には行けない。
…今さら、俺が望に気持ちを伝えたって、俺と望の関係はどうにもならない。
「俺は好きだよ。」
俺を真っ直ぐ見つめているのが俯いていてもわかる。
望は優しいけれど芯の通った声でそう言った。
「うう…。…俺も、…好きだ…。」
そんな望の態度に俺は怯み、また、心が緩んだ。
結局、何を言っても望は冗談にして笑ってくれる気がした。
この時ばかりは、自分が傷つかないからそれで良いと思えた。
俯いたまま、本当に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言った。
望が本気で受けとってくれるかわからないのに、それが俺にとって精一杯だった。
望は息を飲むように、一瞬の間、黙った。
「…じゃあ、付き合おっか。」
「え?」
「え?」
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