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Neid
若干ですが小西弟コミュネタバレあります。
小西弟の性格をしっかり捉えられてない感たっぷりだったり、台詞間違いなどあるかもしれませんがそれでも良ければどうぞ。


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この空間が息苦しい。
ジュネスの円卓テーブルを一緒に囲んでいる陽介と尚紀、この二人が不仲で話が進まないとか、良くない雰囲気だとかそういうわけではないのだが。むしろ不仲で話が進まない方がどれほど良かっただろう。

(「俺、お前のお姉ちゃんのこと」)

頭の中で反芻してみる。
声、表情、仕草。どれもこれも、しっかりと陽介のそれで再生されるのがまた辛い。

(好きだった、か・・・)

尚紀も言っていたように確かに過去形、それでもそんなことはまるで関係なく陽介の口からこぼれた言葉は俺の心をちくちくと刺激する。苦しい、許せない。そんな感情ばかりが沸きあがる。
(許せない?誰を)
分からない。
しいてあげるとすれば汚い感情で一杯になってしまっている今の自分と、それから陽介の一部を丸ごと持っていってしまった話題の彼女だろう。もうこの世に居ない彼女には汚い感情をこうも簡単に向けられてしまうのに、いつも近くに居る陽介には一切向けられない自分が嫌になる。これも惚れた弱みというものだろうか。

彼女と一言二言交わした以外交流の無かった俺では二人の会話に上手く混ざることも出来ず、モヤモヤとした気持ちを抱えながら一人取り残されたような気持ちで時々相槌を打つくらいしか出来なかった。
実際の時間にすればたった十数分程度だったが、俺にとっては何十分にも、何時間にも感じられた。

(はやくかえりたい)

何度そう思ったことだか分からなかった。

+

今からバイトだからと言う陽介をどうにか笑顔で見送って、ようやく帰れることになった。
一緒に来ていた尚紀と一緒に田んぼだらけの道を歩く。ジュネスを出てからここに来るまで数分、大事そうに、壊れ物でも扱うみたいに彼女の名前を口にする陽介の笑顔が頭から離れなかった。

(あんな顔、見たことない)

このどろどろとした感情の正体は分かっている。
でもそれを認めるのは、どうしても嫌だった。


「すいませんでした」
「・・・・・・、え?」
「姉ちゃんの話。つまらなかったですよね」

俯いて、口数の少ない俺を不機嫌になっていると取ったのか、不意に尚紀が申し訳無さそうな顔でそう呟いた。ちょうど、あと数分歩けば分かれ道に差し掛かろうという辺りだった。
ジュネスからここまで来るのに何か話をしていた記憶があるが、いったいなんの話をしていたのかまったく思い出せない。

「ああ、…そんなこと気にしなくて良かったのに。気にしてない。むしろあんまり話に参加できなくて、俺のほうこそごめん」
「いえ、そんな…花村先輩があんなに姉ちゃんのこと良く知ってるなんて思って無かったんで、つい嬉しくなっちゃって」

あんなに姉ちゃんのこと見てた人が居たなんて、姉ちゃんも果報者ですよね。尚紀は本当に嬉しそうに笑いながらそう言う。

(本当に好きだったんだな)
そう思うと、笑顔の尚紀とは裏腹にどんどん気分が沈んでいく。この場に陽介が居ないのだと思うと無理してまで笑顔を浮かべる必要性がまるで無いような気がして、顔からするすると表情が抜けていって気が付けば無表情になっていた。

そんな俺を見ていた尚紀が、不意にクスリと笑い声を上げた。

「やっぱり辛かったんですね。・・・花村先輩のこと」
「え・・・・・・どういう」
「出てました。顔に。それも結構、露骨に。好きなんですよね、花村先輩のこと」

(好きじゃなくて、付き合ってるんだけど)
いきなり核心を突かれて驚いたには驚いたがそれはほんの一瞬のことで、こんなにもあっさりと見抜かれてしまうほど感情を表に出してしまっていた自分に対しての呆れの方がはるかに大きい。
陽介に悟られるならまだしも、付き合いがそれほど深くも無い、それも年下の尚紀に気付かれるなどとは思ってもいなかった。どうにか誤魔化そうにも、動揺で言葉が詰まる。

「姉ちゃんに、嫉妬したんですよね」

何も言えないで居る俺に対して、目の前の尚紀はいつもの柔らかい笑顔で更に追い詰めてくる。
否定したい。だけど出来ない。
陽介とはキスもしたし、それ以上のこともした。愛情を向けられていないなんて思ったことは一度も無い。彼女に恋愛感情が向いていたのは過去の話で、今は俺に向いているんだということは重々分かっているが、それでも腹の底からふつふつと湧いてくる感情を抑え切れない。自分にも、陽介のように過去に愛情を向けていた違う人物が居るというのにだ。わがまま以外のなんでもない。

(嫉妬する自分は嫌いだ)

そんなことを一人考えながら唇を噛み締める俺を見てどう思ったのか、気が付けば尚紀は俺のすぐ目の前まで来て手を握られていた。
自分の目線よりも少し低いところに尚紀の頭がある。まだまだ成長しそうだから、このままいけばすぐに背を追い越されてしまうだろう。長時間風に晒されていたせいか、その手は酷く冷たい。

「砂神先輩。俺が先輩に初めてあったときのこと、覚えてますか?」
「・・・?あんまり覚えてないけど・・・」
いきなり何の話だろう。尚紀の言いたいことは分からないが記憶と頼りに思い出してみる。
尚紀と初めて会ったのはだいぶ前だ。そうだ、まだモロキンが生きていて、委員会活動をしろと言われて・・・その委員会活動に遅れてやってきたのが尚紀だった。そのときのシーンを頭の中で再生してみれば、自然と尚紀の言葉が頭に浮かんだ。
「もしかして俺とか陽介のこと嫌いだって言ったあれのことか?」
言われたことの中で最も頭に残っている言葉を呟いてみる。
そうだ。あのときは尚紀はまだ今みたいに素直ではなくて、何故初対面でそんなことを言われなければならないのかと思ったほどだった。
尚紀がばつが悪そうな表情でこくりと頷く。
「覚えてました?」
「結構ショックだったからな、あれ」
「すいません、あんなの嘘ですから忘れてください」
「今はそんなに気にして無い」
掴まれて居ない方の手でわしわしと尚紀の頭を撫でてやると、恥ずかしそうに笑顔を浮かべる。こういうところは年相応で可愛いと思う。

「まぁ・・・、花村先輩が嫌いだっていうのは今でも変わりませんけど」

撫でている途中でふと聞こえてきた小さな声。
注意していなければ聞き逃してしまうような、そんな囁きだった。
撫でていた手が自然と止まり、疑問を胸に秘めたまま尚紀の顔をじっと見やるとふと目が合った。にっこりと笑って、「また顔に出てますよ」と言われてしまうほどはっきりと表情に出てしまっていたらしい。

「えっと・・・一応聞いてみるけど、なんで?」
冷静を装ったつもりだったが、情けないことに声が震えていた。自分が好意を寄せる人間が嫌われるというものはこんなに辛いものだっただろうか。
「…砂神先輩のことを傷付けられる唯一の人ですから、あの人」
「え?」
尚紀からの返答は普通に聞けば確かに質問に答えているように聞こえた。
・・・でも、なんだろう。何か突っかかりを感じる。知らないふりをしても大した影響は無い、だけど何故だか気になる小さな綻びのような・・・そんな突っかかりだった。
陽介が俺を傷付けたからって何だと言うんだろう。傷つくと言ってもそこまで深い傷をつけられたことは無いし、はっきり言って尚紀にはあまり関係が無い。陽介を嫌う理由としてそれを挙げるには、何かが欠けている気がした。

「そんな顔しないで下さい」
すっと手を伸ばされたと思うとその手で頭を撫でられた。
「花村先輩もそうですけど、砂神先輩も大概鈍いですよね」
「尚紀・・・ごめん、言ってる意味が良く分からない」
「・・・こうされればさすがにわかります?」

気が付けばさっきまで下にあったはずの尚紀の顔がすぐ目の前にあった。少し背伸びをしているようで、目線が同じ高さだ。
尚紀の言葉の意味を量りかねて戸惑っているうちに視界が尚紀の顔で一杯になって、それから唇に何かが触れる感触。マシュマロに似ているけれど、それよりもずっと暖かくて柔らかい感触で、なんとなしに自分の唇を指で撫でてみると先ほどの感触に良く似ていることに気が付いた。

要するに、キスされた。

「っ、!」
さすがに驚いて一歩後ろに下がると、自然と尚紀の手の中から俺の手がするりと抜け落ちる。
何故こんなことを、とかどういうつもりか、とか言ってやりたいことは山ほどあるはずなのに何も言葉にならなかった。ぱくぱくと口を無意味に動かすだけの俺を笑顔で一瞥すると、
「さよなら。……また、明日。」
短く、一言だけそういってすたすたと先に歩いていってしまった。


制服のポケットで携帯が振動するのも気が付かないまま、遠くなっていく背中を眺めながらしばらくの間そこに立ち尽くしていた。


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>Return



最後にメールを寄越してきたのは陽介です。

小西弟は別に二人の仲を裂くだとかそんなことは考えてません。
ただ主人公に気持ちを知ってもらいたかったってだけだと思います。控えめな子っぽいからなーあうーん。



あきゅろす。
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