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WORLD・WALKERS-世界を駆ける者たち-(打ち切り)
第1話
第1話 紐育の多忙な一日

クリスマス公園で忙しい日が続くここ紐育、リトルリップシアター。
大きな唇、リップがシンボルのこの劇場の人気は紐育で知らない者はいないだろう。
ジャンヌダルクのあの一件以来は特に大きな事件もなく、紐育だけでなく、帝都、巴里もずっと平和な日々が続いていた。
そして同時に舞台に立ち、輝く乙女達の姿は人々に夢を与え続けていた。

「はい、次はここのパートです。ラッシー先生、お願いします」
「ハイハイ、ラッシーがここからはいつも通り受け持ちます」
今日もリトルリップシアターではクリスマス公演に向けての稽古が行われていた。
星組の隊長である大河新次郎は振付師のボブ・ラッシーの稽古の手伝いをしていた。
主な稽古はラッシー先生が、新次郎は台本片手にラッシー先生にパートを教えたり、舞台稽古に使う道具を運ぶ等の手伝いをしていた。
「ハイ!ワン、ツー、スリー、ワン、ツー、スリー!!」
ラッシー先生のテンポに合わせて星組5人は振り付けを合わせてゆく。

「ラッシー先生、ちょっといいかしら?」
「ん?なんだいラチェット。稽古の途中に来るのは珍しいねえ」
稽古の最中、客席の入口から静かに入ってきたのは元ブロードウェイの大スターであり、
紐育華撃団副司令で支配人のラチェット・アルタイルであった。
「大河くんをお借りしたいのですが」
「ああ、別にいいよ。確か、昨日もそうだったよね。じゃ、今日も君がアシスタントだね」
ラッシー先生もラチェットには事前に聞かされていたのか、新次郎を快く譲る。
「分かりました、では大河くんも代わりは私が・・・」
そうラチェットは客席にいた新次郎に向けて言った。
「大河くん。サニーが呼んでいるわ。ここは私が代わってあげるからあなたは支配人室へ行って」
「はい、わかりました。すみません、ラチェットさん」
「いいのよ、別に。私も事務の仕事が早めに終わったから」
客席の入口へと小走りしながら新次郎はラチェットにお礼を言った。
「新次郎!!仕事頑張ってね!!」
ステージを後にする新次郎にステージに立つジェミニが手を振りながら声をかけた。
「うん、みんなも稽古頑張って。じゃあ・・・」
新次郎は軽く手を振るとステージを後にする。

エレベーターに乗り、急いで支配人室へと向かった。
「失礼します」支配人室へ入ると窓の方を見ていたオーナーのマイケル・サニーサイドが振り向いて早速声をかけてきた。
「やあ、大河くん。今日も呼んじゃって悪いねぇ」
サニーは軽く笑った。新次郎は早速用件を聞く。
「サニーさん、今日は一体何を?」
「またキミだけ特別な仕事をお願いしちゃうけど、舞台に使う小道具や飾りに使う材料等を注文しておいて欲しいんだ」
サニーは机の引き出しから一枚のメモを取り出す。
「このメモにお店の名前、住所と注文しておいて欲しい品をだいたい書いておいたから宜しく頼むよ」

新次郎はそのメモを受け取り、メモを見た。すると新次郎の表情唖然とした物に変わった。
「わひゃあ・・・これ全部ですか!?全部で10件・・・しかもバラバラ・・・」
「こんな雪が降ってる中悪いけど、大河くん以外に頼める人がいなくてね〜、プラムと杏里も衣装作りで忙しいから・・・紐育中走り回る事になっちゃうね」
サニーは困り顔で頼むとメモを見ていた新次郎は顔をあげる。
「分かりました。ちょっとお店とお店が遠い所にありますが、必ずなんとかします。いえ、やりとげて見せます!!」
新次郎は勇ましく気合を入れる。
「うん!その意気だよ。けど、風邪はひかないようにね。ちゃんと暖かくして・・・では、イッテラッシャイ!!」

サニーに見送られた新次郎は支配人室を後にし、コートを着てすぐに出発した。
昨日は新次郎はラッシー先生による稽古のアシスタントの後、車で運ばれてきた荷物をシアターに運ぶ仕事をしていた。
そして、夜はいつも通りモギリをしていた。幸い、今日は公演はなく、そのままモギリという訳ではないので、時間の心配をする必要はなかった。
ただ、今日は雪が積もるほどではないが、降っている上に真冬の夜の紐育は寒いので早くおつかいを終わらせたい気分であった。
新次郎は一件、一件、お店を回り、とうとう残すお店は最後の一件になった。気づけばもう空は日が沈み、夜は近かった。
出発した頃は昼過ぎであった。紐育は大都市であるため、お店間の移動に時間がかかるのである。

「よし・・・確か、最後のお店はハーレム地区だったな」
残り一つのお店のため、新次郎はミッドタウンからハーレム地区へと向かった。
「よお!シンジロウ!!」
「あ、カルロスさん!」
ハーレムへと入った新次郎を出迎えたのはサジータの友人であり、ケンタウロスのヘッドであるカルロスであった。
「何だか大変そうだな、大丈夫か?」
「ちょっと・・・疲れてるだけです。シアターで材料の注文を頼まれて・・・今までで9件回ったので・・・」
これまで9件のお店を回って紐育中を駆け巡った新次郎はヘトヘトで寒さにも体力を奪われつつあった。
それをカルロスに見透かされた彼はやや疲れ気味で答えた。
「そうか・・・もうすぐクリスマスも近いからな。よし!今からバイクを持って来る!ちょっと待っててくれ!!」
カルロスは近くの路地裏へと走って行く。走っていくカルロスを止めるように新次郎は後ろから
「ああ、いいです!!歩いて5分ほどですからぁー!!」
「気にすんな、ケンタウロスの誓いだろ!!」カルロスは走りながら新次郎にそう言い返した。

そして、待つ暇もなくカルロスは同じケンタウロスのメンバーのジンジン、バーバラも連れて、三人でバイクに乗って現れた。
「ヤッホー!シンジロウ!!」「あたし達も来たよ!」
「(うわっ、ジンジンさんとバーバラさんまで・・・)」新次郎は驚きつつも呟いた。
三人はバイクで新次郎の側に近づいてきた。
「遠慮せずに乗りな。風邪なんかひいたらサジータにも心配かけるだろ?」
「今年のリトルリップシアターのクリスマス公演、楽しみにしてっからさ!!」
「それに・・・あんたもあたし達の仲間だろ?ほら、乗った、乗った」
「はい・・・皆さんありがとうございます」新次郎は少し困り笑顔で言うとカルロスの後ろに乗った。
「カルロスさん!!ここの場所までお願いします!!」
新次郎はサニーからもらったメモを片手にカルロスに行き先を教えた。
「よーし、飛ばすぞ!!しっかり掴まってろよ!!」「はい!!」
カルロスは勢いづけると新次郎も気合入った返事をする。

新次郎が後ろに乗ったカルロスが運転するバイクは凄いスピードで走り出した。
それに続いてジンジンとバーバラもバイクを走らせ、後に続いて走っていく。
「それにしても・・・ホントにありがとうございます」
「いいって、いいって。お前もケンタウロスの一員だろ?一人はみんなのために、みんなは一人のために・・・ただハーレムを愛する・・・だ。
お前がこんなとこで倒れちゃ、サジータにも悪いからな」
「曲がるよ!!しっかり掴まってて!!」
カルロスと新次郎が話しているとジンジンがちょうど隣にバイクを走らせて新次郎に注意をした。
「見つけた!あのお店です!」三体のバイクが路地裏を通り、街に出ると新次郎はメモに書いてあったお店を見つけ、右手で指差す。
「よーし!!分かった、あそこだな!!」カルロス達はお店の前にバイクを止めた。
「ありがとうございます!」

新次郎はカルロス達にお礼を言うと駆け足でお店の中に入っていく。
手早く、サニーに頼まれていた品の注文を終え、その後カルロス達と共に再びハーレムの入口へと戻ってきた。
「本当に・・・ありがとうございました。皆さんのお陰で仕事を早く終えられました」
「また一緒に乗ろうぜ。今度はサジータも一緒にな」
「いいね、やろう!やろう!久々に姉御も一緒に・・・」
「今まで色々みんな忙しかったからねぇ。たまにはみんなで走りたいよね」
カルロスの意見にジンジンもバーバラも賛成した。
「いいですね!やりましょう!きっと楽しいですよ!!」
新次郎も一緒になってその考えに賛同する。
「ああ、走りまくりの一日になりそうだな!!」
しばらくの間、その話で盛り上がる4人。

「じゃあ、また!カルロスさん、ジンジンさん、バーバラさん、ありがとうございました!」
「おう!!またいつでも来いよ!!」カルロス達に見送られ新次郎はハーレムを後にし、シアターへと戻ってきた。
もうとっくに空は真っ暗、時刻は夜七時に差し掛かる所であった。
「だいぶ遅くなっちゃったな・・・ともあれ、頼まれた仕事は全部終えた。サニーさんに報告しないと・・・」
新次郎はシアターのドアを開けて入った。
バァーン!バァーン!「わひゃあ!?クラッカー・・・?」
新次郎が帰ってくると突如左右からクラッカーが鳴る音がする。突然のクラッカー音に新次郎は驚く。
クラッカーを鳴らしたのはプラムと杏里であった。

「きゃふーん!タイガー、ただいまー!!」
「別に・・・サニーサイドさまに頼まれただけなんですからね、大河さんったら・・・」
ノリノリなプラムとは対照的に杏里は照れくさい表情だった。
「プラムさんに杏里くん・・・これはどういうことだい!?」
突然のクラッカーについて二人に聞こうとするがそこに・・・
「新次郎!!」「しんじろー!!」「ジェミニ、リカ!?」
続いて星組五人が現れ、新次郎を出迎える。その中でも真っ先に新次郎に向かって走ってきたのがジェミニとリカであった。
「新次郎、お疲れ様」
「リカ、しんじろーずっと待ってた!!ドッカーン!!」
バァーン!!ジェミニとリカが真っ先に新次郎に駆け寄ってくるとリカは持っていたクラッカーを鳴らす。
「よっ、新次郎!!寒い中、お疲れ!!」「サジータさん!!」
新次郎とサジータはハイタッチを交わした。
「大河さん、寒い中、お疲れ様です。」
「ダイアナさん、これは一体どういう事なんですか?」
新次郎はダイアナにこの猪突な出迎え様を気にして聞く。
「わたし達もお稽古が終わった後におじさまの提案でちょっと大河さんを驚かせるサプライズをやる事になって・・・」
「君が帰ってくるまでに僕がクリスマス用も兼ねて、クラッカーを買っておいたんだ」
「そうだったんですか・・・」
「ふふふ・・・今日は大河さんが帰ってくるのがちょっとワクワクしました」
ダイアナは新次郎を見て微笑んでいる。
「昴は・・・褒める。大河も寒い中、よく頑張った・・・と。それに・・・」
「それに?」
「僕も・・・大河に久々にサプライズを見せたら、どんな顔をするか興味深かったからね・・・喜んでもらえて何よりだ」
「昴さん・・・」昴は少し微笑みながら言った。

それだけではない。みんな、新次郎を出迎えて笑顔を浮かべていた。自然と新次郎もそんな場の空気へとのめり込んでいく。
そこにサニーとラチェットが現れた。
「はっはっは!!サプライズだからねえ・・・元はと言えば仕事を頼む前から考えていたんだけどね・・・今日はパーティをやろうって!」
サニーは笑いながら大きな声で言った。
ラチェットも星組の中心にいる新次郎にそっと近づいてくる。
「お疲れ様、大河くん。注文はどう?」
「もちろん、全部終わりました!!」
「うん、ごくろうさま」
ラチェットも新次郎を見て微笑む。
「よし!!大河くんも帰ってきたことだし、行こうか!!」
「行くってどこですか?」
何も知らない新次郎はサニーに訊ねた。
「ボクの屋敷だよ、今日は準備が一段落した前祝いだ。ちょっと早いクリスマスだね。人生はエンターテイメント!!レーッツ、パーティ!!」
サニーからはいつものテンションの高さと興奮を感じられた。

その後、全員はサニーサイドの屋敷へと移動し、準備が一段落した前祝いと公演の成功を祈ってのパーティが行われた。
前祝いにも関わらず豪華料理がより取り緑テーブルに並べられ、シャンパンで一同は乾杯する。
セントラルパークを貸し切った公演とは違い、今回はシアターでのショウとなった。
サニーやラチェットの話によると今年は諸事情でセントラルパークを丸ごと貸し切る事が出来なかったようなのだ。
しかし、夏と同様に凄い公演にするべく、サニーははりきっていた。
そしてパーティはあっという間に夜遅くまで続き、お開きとなる。

それぞれの帰路へとつく星組の面々と新次郎。
寒い夜のセントラルパークの草原にて6人は解散する。
「大河、僕はここで・・・」
「新次郎、また明日な!!」
「大河さん、皆さん、おやすみなさい」
「おやすみなさい、皆さん・・・」
ミッドタウン地区やハーレム地区に住む昴、サジータ、ダイアナとはここで別れた。
3人を見送った後、帰りが同じルートであるジェミニとリカとはそのまま一緒にビレッジまで一緒に帰った。
そして、三人はビレッジへと着いた。
「じゃあな、しんじろー!!」
リカはこちらに手を振るとベイエリアの方へと走って行った。
「リカ、また明日ー!!」新次郎も手を振る。
「新次郎、おやすみ。また明日ね」
「おやすみ、ジェミニ」

ジェミニと別れた新次郎は自分のアパートへと帰ってくるとベッドにぐったり寝込んでしまった。
「今日も色々と忙しかったけど・・・楽しかったな・・・明日からも頑張らないとな・・・お休み・・・」
新次郎はそのまま眠ってしまった。
新次郎だけでなく、この時は誰もがいつも通り、平和な日常が明日も始まるのだと思っていた。
だが、それを打ち砕く非日常がこの後やってくるのである。紐育だけでなく、帝都、巴里にも・・・・

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